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映画感想文「ぼくたちの哲学教室」日常に哲学が必要だとわかるドキュメンタリー

「この街の大人達は大変な目にあったんだ」

校長は子供達に語りかける。

北アイルランドのベルファスト。長年に渡りプロテスタントとカトリックの紛争が続く街は、憎しみと恐怖に満ちている。

それは、子供達の祖父母から両親へと脈々と引き継がれ、ドラッグで命を断つ若者が後を絶たず、拳で相手を黙らせるような大人も多い。

そんな街にある4歳から11歳までの子供が通う「ホーリークロス男子小学校」で、校長のケヴィンは子供達に哲学を教えている。

彼の哲学の授業は、様々な日常の問題について子供達に問いかけることだ。

「他人に怒りをぶつけてもよいか?」
「やられたらやりかえす。それでよいか?」

「どうしてそれを選択したのか?」
「それはなぜなのか?」

教室で輪になり、子供達は互いの意見をぶつけあう。

この街で自らの身を守るには、不安や怒り等の感情コントロール、そして相手を理解すること、が必要だ。

それらが身に付くよう、何度も飽きずに繰り返し問い続ける。

そんな風に負の資産を断ち切ろうと立ち向かうケヴィン校長は、鼻歌まじりに車を走らせる快活なナイスガイ、プレスリー好きで筋トレが趣味のマッチョだ。

子供達との対話の合間に筋トレをする姿が何度か登場するが、かなり本格的である。その傾倒ぶりに、彼が無意識に抱えているであろう、この街で生き抜くことの過酷さが滲み出る。

そして子供達に目を向けてみれば、大人顔負けの議論が繰り広げられる一方で、他愛もない事で掴み合いの喧嘩になったり、くすりと笑える珍回答が飛び出したり。小学生男子らしさも全開で和む。

「どんな意見も価値がある」

何度も繰り返すケヴィン校長の一言が印象的。大人も考えさせられる秀逸なドキュメンタリー映画。

私自身もこの映画で日頃の自分の行動の至らなさに大いに気付かされた。大人が見ても学び多き作品である。

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