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映画感想文「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」喪失が人を成す残酷さを思う

人生で後悔していることは、子供を持てなかったこと。

そう語る、南米ウルグアイの元大統領、ホセ・ムヒカのドキュメンタリー映画。

貧困家庭に生まれ、長じては社会主義に理想を抱き、左翼ゲリラとして活動。

銀行を襲い、その富を貧しい人々に分配するなど、主義主張のためとはいえ、数々の犯罪を重ねる。

4回逮捕され、うち2回脱獄。

30代から40代にかけ、十数年間を刑務所で過ごす。ゲリラ仲間の彼の妻も同様に20代から30代に長い刑務所生活を送った。離れ離れに暮らすことを余儀なくされ、子を成すことはできなかった。

5年間の大統領生活。その間も収入のほとんどを貧しい人々の暮らしを良くするために使った。自らは郊外の質素な家に住まう。

私利私欲に走らないその姿は、国民に愛された。

ゲリラ活動をしていた名残は感じられない。柔和で穏やかな表情や仕草。花を愛で、畑でトラクターを運転する。そのあたりにいそうな、気のいい普通のおじいさん、である。

しかし彼の後悔を聞いた時、理解した。悔やまれる喪失があるからこそ、人に分け与える彼になり得たのだということを。

残す者はいない。残りの人生でそんなにお金は必要ではない。だから貧しい人々に分け与えるのだ。80代の彼の語りに、うんうん、それはそうだろうと頷きかける。そしてはたと気付く。理屈はそうだが、ほとんどの老人はため込むばかりで彼と同じように手放すことはできないことに。

それでも、子供がいたら残そうとしていたのかもしれない。という思いは拭えない。

本人にとっての喪失がその人らしさを作っている。そんな皮肉に人生の残酷さ、奥深さを思う。

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