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映画感想文「帰らない日曜日」戦後の喪失を背景に身分違いの恋を描く。英国の田園風景が美しく切ない

大人になるにつれて悟る。

完璧な幸せもなければ、完璧な不幸もないことを。

1924年春、第一次世界対戦後のイギリス。裕福な貴族の御曹司ポールと隣家のメイドであるジェーンはお互いの欠落を埋めるように惹かれあう。

兄二人が戦死し唯一の跡継ぎとなったポールは、ひとり生き残った罪悪感に加え、家を絶やさぬための愛なき結婚や親の期待の大きさに、閉塞感を感じていた。

一方孤児であるジェーンは生まれたときから何も持たず、誰もが心浮き立つマザリングサンデー(年に一度、メイドが実家に帰ることを許される母の日)に、帰る家もない孤独を抱えていた。

決して結ばれぬ身分違いの恋は、やがてある結末を迎える。

時に気丈に振舞い、時に嗚咽しながら、どんな不幸も乗り越え血肉にして生きるジェーンの強かさに胸を打たれる。

同時に晩年の彼女が人生を変えた運命の日からを振り返る時、その道が多くの善意や賞賛、愛や理解に彩られていたことも描かれ、そこに人生の奥深さを噛み締める。

求めあう若い二人の絡みは半分が全裸だが、エロさというよりもお互い身も心も許していたことを言外に語る重要なアイテムになっており、どこまでも麗らかなイギリスの田園風景とともに、その美しさが切ない。

オスカー受賞のベテラン、コリン・ファースとオリビア・コールマンが没落していく雇い主夫妻を演じ脇を支えるが、オリビア・コールマン演じる妻がジェーンに語るある台詞はさすがの貫禄。これを聞くだけでも観る価値あり。

人生における喪失と獲得を描く原作も素晴らしく、おすすめ。

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