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映画感想文「シド・バレット 独りぼっちの狂気」ピンク・フロイドの始まりの物語

彼の人生は前途洋々であった。

研究者の父、理解ある母親。そんな両親のもとに生まれ、何をやっても器用にこなす才気あふれた子供。とりわけ絵画など芸術に秀でていたという。

画家を目指して美術学校へ。音楽の才にも恵まれ、幼馴染のロジャー・ウォーターズとピンク・フロイドの前身となるバンドを組み、曲作り、ヴォーカル、ギターを担当。

インタビューされた友人達が口々に語るように「当時僕らの中心にいるスター」だった。

1967年にメジャーデビュー。あっという間に音楽シーンを席巻。斬新な音楽に端正な容姿。将来は約束されたも同然であった。

しかしわずか一年でバンドを脱退。ドラッグによる奇行が原因だ。その後ソロ活動を開始。だが、やはりドラッグ漬けが原因で活動は終了。彼の中で何が起こっていたのか、誰にもわからない。彼の精神は崩壊寸前だったのだ。

以降は故郷の街に帰り、静かに暮らした。

「ピンク・フロイド」のメンバー、シド・バレットのドキュメンタリー映画。偉大なロックバンドの創設メンバーでありながら、5年で姿を消し60歳で亡くなるまで、故郷で隠遁生活を送った、謎の人物。

家族や幼少時代から学生時代までの友人、音楽仲間、もちろんピンク・フロイドのメンバーまで。多くの人たちのインタビューから構成されている。情報満載で、非常に興味深い内容になっている。

音楽には疎い。

それなのに、ミュージシャンのドキュメンタリーが大好きだ。いや、そもそもミュージシャンではなくともドキュメンタリーが好きなのだ。そしてミュージシャンほど、ドキュメンタリー向きである。これほどまでに、その人生が破天荒で興味深い人種はいない。

これもまた、そんな作品。

惜むらくは、映画としての構成や編集が今ひとつ、シャープではないこと。せっかくの素晴らしい素材がうまく料理されず、やや未消化。というか、だれ気味で途中で眠くなる構成になってしまっている。

しかし内容は充実。見応えあり。

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