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映画感想文「ぼくが生きてる、ふたつの世界」ろうの両親を持つ青年の普遍的な成長物語

ああ、そうなんだと。

全てが理解できた気がしたラストシーン。巧みさに舌を巻いた。

泣かせすぎない自然な演出。かつ、シナリオがとても良い。ラスト10分で全て持ってかれた。

ろうの両親を持つひとりの青年の成長物語。

本人によって書かれた「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」を元にした作品である。

宮城県の港町で生まれた五十嵐大(吉沢亮)。両親は耳が聞こえない。幼い頃から両親とは手話で会話し、周囲と両親の間を通訳してきた。

そんな毎日に疑問をもたなかった彼だが、思春期になり、両親を疎ましく思い始める。この辺りの描写には普遍的なものがあり、ろうの家庭でなくてもあるあるだな、のシーンが続く。よって誰もがちくりと身に覚えのあるエピソードに泣ける。

時系列が今と過去を行ったり来たりする。それが、多少の分かりにくさを生んではいるが演出上必要だったことが最後にわかる。

実際に耳の聞こえない演者が演じていることでリアリティを生んでいる。いずれも素晴らしいが母親役の忍足亜希子がとても良い。どこにでもいる子を思う母の気持ち、そして自分がハンデを抱えるが故のもどかしさが十分に表現されており胸を打つ。

そして主演の吉沢亮。こんなにうまい役者さんだったんだと改めて目を見張った。中学時代からおそらく20代後半くらいまでを演じているが、それぞれの年代の葛藤が手にとるように分かった。情感を滲ませるのがうまい。素晴らしい役者さんだとしみじみ思った。

そして「そこのみにて光輝く(2014年公開)」の呉美保監督、「正欲(2023年公開)」「アナログ(2023年公開)」の港岳彦脚本の素晴らしさ。

噛み締めるほどに響く味わい深い映画である。

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