映画感想文「ミッシング」石原さとみがキャリア最高の演技。娘の失踪に苦悩する夫婦の物語
119分間ずっと、苦悩し泣き叫ぶ石原さとみ。
驚いた。すごい演技だ。本当に渦中の人に見える。6歳の娘が行方不明になった、その母親さおり(石原さとみ)。失踪して3か月、まだなんの手がりもない。
その時、彼女は弟に娘を任せ、推しのコンサートに行っていた。自分を責める。更に、どこからともなくその情報が流れ、SNSには母親失格となじる書き込みが溢れる。段々と精神不安定になっていくさおり。そしてテレビ局の記者(中村倫也)、警察、誰かれ構わずヒステリックに叫び、すがる。
リアルだ。そう、実際に自分にこんなことが起きたら、こんな風にぼろぼろになってしまうだろう。勿論、人によってその表れ具合は異なる。だからさおりと同じように泣き叫ぶかどうかは、さておき。狂ってしまうことは違いない。
いままでドラマのヒロインを演じることの多かった石原さとみ。自らのキャリアを変えようと吉田恵輔監督に直談判した結果、本作の出演に繋がったと雑誌で読んだ。そのチャレンジは見事に花開いた。本作は彼女のキャリアの中でもシンボリックな作品になるだろう。
そしてこの作品、普通の日常シーンがふんだんに取り込まれているのが良い。自転車に乗ってパートに行くさおり、スーパーで夕ご飯の食材を買い求めるさおり。苦悩の最中でも人にはそんな日常がある。その緩急つけた描き方が、より作品にリアルさを生んでいる。
また、夫役の青木崇高、弟役の森優作の押さえた演技も大変素晴らしかった。個人的にはこちらの悲しみ方に深く共感した。
感情的になる妻とは対照的にいつも冷静な夫。妻をなだめ落ち着くように諭す役割だ。しかし内面では妻以上に葛藤し、崩れ落ちそうである。
一方、外交的な姉とは対照的な内気な弟。取材を受けてもろくに話すこともできない。気の効いた慰めを言ったりもできない。しかし姪の失踪に責任を感じ、苦しんでいる。
そんな彼らの一筋の涙が、強く印象に残った。
家族だけではない。テレビ局の報道記者(中村倫也)から見た事件を描き、そんなところも多面的な物語になっている。
そしてエンディングで知った、プロデューサーがスターサンズ河村光庸氏だということ。吉田監督はじめ若手監督を抜擢。意欲的な作品を出しているスターサンズの代表。2年前に心不全で亡くなった。こんな風に後世に残る作品を輩出してることが本当に素晴らしいなと感じた。
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