映画感想文「十一人の賊軍」幕末にうまいことやった新発田藩のエピソードを元にした物語
あっという間の155分。
長尺に躊躇していたが観て正解。めちゃくちゃ面白かった。迷ってる方には全力でオススメする。
おすすめポイントは3つ。
1.些細なことで罪に問われ、すぐに処罰される。そんな人権なき時代の罪人。彼らの決死の戦いが「なんでもあり」で胸がすく
2.キャスティング最高。キャラとの一致もあり、多彩な登場人物が魅力的で引き込まれる
3.殺陣のレベルが高く美しい
時代は江戸末期の1868年。徳川慶喜の旧幕府軍、薩摩藩と長州藩を中心とした新政府軍の戊辰戦争。当初は旧幕府軍だった新発田藩(新潟県新発田市)が、寝返ったという史実にヒントを得た物語。
この時代の物語はたくさんあれど、旧幕府軍か新政府軍か、いずれにせよ武士の視点からの取り上げが多い。本作はどちらでもない一市民の立場からの幕末を描いてるのが新鮮だ。
また武士も、坂本龍馬に代表される、日本をどうにかしようと高邁な思想で動いた人々を描く物語は多いが本作は、そうでもない武士のいきあたりばったりも描かれており、こっちの方が現実感あり興味深い。
罪人の中でも中心的存在のまさ(山田孝之)と賊軍を率いる新発田藩の武士兵士郎(仲野太賀)がダブル主演。
山田孝之の役はもう少しキャラクターを深掘りしてシナリオ描いて欲しかったと思うが、最終的には彼の俳優としての力量で、力づくで説得力を持たせているから良し。仲野太賀はこの作品が代表作になるくらい出ずっぱりのいい役。かつ、不器用だが誠実に生きる剣術の達人でナイスガイ、という役柄が彼の一般的イメージとも合致しこちらも、説得力抜群で良き。
更に賊軍の他の面々も魅力的だ。
殺陣の名手の老人を演じた本山力(先日観た『侍ストッパー』にも出ていた)。彼の殺陣の美しさはもはや芸術であり必見だし、仲野太賀もなかなか美しい構えで見応えあった。
また魑魅魍魎なやり手の新発田藩の家老を演じた阿部サダヲ。家老から命をうける武士を演じた野村周平の悪い人じゃないんだけど‥の絶妙な軽さ具合。テレビドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』での天才医者役を彷彿とさせる岡山天音のほんのり二枚目具合。跳ねっ返りのイキのいい女を演じる鞘師里保の「幸薄だけど強く生きる蓮っ葉な女」具合。いずれも絶妙であり、大変感心した。
その中でも、仲野太賀。彼のプロモーション映画かと見紛うくらいに彼がカッコ良い。ファンは必見だ。
そして、まさを兄と慕うノロを演じた佐久本宝。めちゃくちゃ演技がうまいんだが、誰?と観終わってからググった。非常に記憶に残る演技であった。今後も注目である。
注意点は一つだけ。白石和彌監督らしいバイオレンスな映像が続く。それがダメな人は避けた方が良さそう。
東京国際映画祭のオープニングに、選ばれた映画とのこと。それも納得の出来栄えであった。