大切な場所だからこそ、時に重い足枷になる「ヤクザと家族」

誰しも家族がある。大切な場所だからこそ、時に重い足かせとなり、守りたいはずが自分が不幸にしてしまう現実に打ちのめされる。

証券マンだった父親をバブル崩壊後にヤク中で失くし、薬を売ったヤクザを憎みながらも命を救ってくれた別の組に拾われ、組長と親子の盃を結び、疑似家族としてヤクザの世界で生きていく青年山本の19歳から39歳までを描いた作品。

この時代にヤクザをテーマにすることにビックリしたが、1999年、2005年、2019年と暴対法により衰退していくヤクザの栄枯盛衰、変わりゆく時代の波に取り残されていく人たちの悲しい姿は決して他人事ではなく。また、臭いものに蓋をし全てを排除してしまうことで、より生き辛さを生む現代社会へ疑問を投げ掛ける。

山本を演じた綾野剛がインタビューで「山本は生きる権利を獲得しようと必死だった。どんな境遇でも決して諦めなかった。僕が俳優をやっているのも同じだなと気付いた」と語っていたのが印象的。

愛や憎しみは不の連鎖を生む。不の連鎖を立ちきるには大切なものを捨てることを選択せざるを得ないことがある。そんな不条理に整理しきれない感情を、エンドロールに流れる主題歌King Gnu常田大希の「FAMILIA」が癒す。

間違いなく綾野剛最高傑作。監督は2019年日本アカデミー賞三部門受賞の藤井道人。舘ひろし、磯村勇斗、尾野真千子、市川隼人、等脇を固める布陣もキャリアベストの好演の意外な拾い物。ヤクザというテーマに怯まずぜひ観て欲しい素晴らしいヒューマンドラマ。

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