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映画感想文「青いカフタンの仕立て屋」古い慣習残るモロッコに生きる、ある夫婦の愛の形を描く

愛ってなに?

古今東西永遠のテーマに対し、男女の愛、親子の愛、でもなく、もっと広い愛を描いた作品。

モロッコの海辺の街サレで、伝統衣装カフタンドレス専門の仕立て屋を営む夫婦、ハリムとミナ。

父から店を受け継ぎ伝統を支えながらも、伝統に従えない秘密を抱え孤独に生きる職人ハリム。そんな彼を理解し支えるミナ。

2人は何もかも、正反対だ。自分の気持ちを語らず内に秘め、誰にでも温和に接し波風を立てないハリム。いつもはっきりとものを言い、自分のやりたいことを押し通すミナ。

しかし物語が進むに連れ、おそらくハリムを守るため長年の間にミナが強くなっていったであろうことがわかる。

決してミシンを使わず手仕事に拘るハリムに仕事を急かす客に「それなら他所に行って」と反論する。常にありのままのハリムを受け止め慮り世間から彼を守ろうとするミナ。

しかし彼女は病に侵され余命わずかだった。死の影に怯える夫婦の元に、新しい弟子のユーセフが加わる。2人のバランスは一時的に崩れかけるが、いろいろな感情が渦巻く中、やがて3人はお互いを支え合う大切な存在になっていく。

病と闘いながらも人を愛し赦し、自分の死後の彼の人生を思い、生きるとはどういうことかとハリムの背中を押すミナがめちゃくちゃカッコ良い。恐らく心から彼の人生が心配だったし、彼に幸せになって欲しいと願っていたんだろう。

ここまで誰かに愛情を注ぎ続けた彼女の人生は、限りなく豊かだ。

そして夫役ハリムの「放っておけない感じの優柔不断ぶり」が秀逸。常識に忠実で不器用で社交下手で。ミナが守ろうと必死になるのが理解できる、静かな魅力に満ちている。

それだけに、ラストで伝統を破り、初めて己の気持ちに忠実に行動するハリムの変化が強いコントラストだ。

異国情緒漂うモロッコの街並みと、繊細な刺繍が施された色とりどりのカフタンの美しさに魅せられる。

セリフ少なめ、解説もなく、街並みの風景と演じ手の表情や背中でみせる演出が素晴らしい。まるで香りが漂ってくるような迫力のある画像に引きこまれる。

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