B2B企業が取るべき2種類のデジタルプロモーション戦略 [コロナ禍×マーケティング論①]

新型コロナウイルスが猛威を振るい、企業はテレワークへの移行が急ピッチで進められているが、その影響でB2B企業の営業活動に支障が出始めている。というのも、リモートワークが普及しつつあるとはいえ、やはり「営業は足で稼ぐ」というのはビフォーコロナの時代には当たり前の価値観だった。

SaaS企業やスタートアップ界隈においてさえも、例外ではない。顔を合わせて会ったほうが説得力があり、場の雰囲気を制したものが商談を制す、という常識があった。

しかしそれが不可抗力にも機会が失われた今、もはや大企業でさえも、今までと同じように商談を繰り返すことは難しくなってくるだろう。そうなると、オンラインを活用した営業活動がデファクトになっていく。

それは、営業に付随したマーケティング領域においても同様だ。B2B企業において、これまで効果的とされてきたものに「展示会」がある。ビッグサイトなどの展示場に一同に集まって、それぞれが自分たちの世界観を体現したブース施工を行い、客を呼び寄せ、名刺を集め、成約を狙う。こうした展示会モデルは、コロナが終息しない限りは、残念ながら今後下火になっていく。

あるいは、最近スタートアップ界隈で賑わっているのは自社主催カンファレンスイベントだ。派手な演出を施し、そこにビジュアルとしての世界観をいれることで没頭感を演出し、自分たちの色を出す。そこでコンセプトメイキングなテーマとともに、視座の高いパネルディスカッションなどを行うことで、経営層を中心とした良質なリードを獲得しようという試みだ。外資系の場合だと、有名アーティストがライブ演奏をしたりするなど、年々その規模は大きくなりつつある。

こうした「オフラインの強みを生かしたイベント」が、このコロナ禍によって制限され、実施が困難な状況になっているが、そこには大きな問題点がひとつある。それは、「企業ブランドを体験・体感してもらう機会が失われている」ということだ。

この図を見て欲しい。

これは、B2B企業におけるマーケティング活動の一例をあげたものだが、この図から、デジタル移行が容易なものと、困難なものが2分されることがわかる。

①と②については、デジタルシフトがいますぐにでも可能であり、トライすべきだ
③と④については、デジタルシフトが困難であり、模索が必要だ

①は、いわゆる営業色の強いイベントやコンテンツだ。これらは現場向けであり、具体的な製品の特徴やメリットに焦点が当てられる。視座の高さに比例して演出力も問われることになるが、この場合は世界観を演出する必要がないため、iPhone一つですぐに始められる。オンラインセミナーは今でも普通に行われているし、ちょっとした照明機材だけ用意すれば、「十分映える」。

②については、パネルディスカッションや対談というコンテンツをどうデジタルで表現するか、ということだが、視座の高い対談やインタビューであるほど、臨場感や世界観を演出しなければならない。記事にしても良いが、人は五感で物事を捉えた方が理解力が早いため、できれば映像化したほうが良い。「読む」より、「聞く」ほうがはるかに頭に入ってくるからだ。しかし、こうした映像には「それっぽいスタジオ」が必要だし、カメラも人数分用意する必要がある。ハードルは高くなるが、ある程度の知識があれば可能だ。プロの動画編集者に数回ワークショップを依頼すれば、自前で可能だろう。

この①と②は「視座の違い」であるが、経営に近い観点で物事をみるか、あるいはより現場に近い観点で、製品のメリットとデメリット、ROIなどを吟味するか、という違いだけだ。

少し脱線するが、僕が長年身を置くマーケティングSaaS業界においては、大きく分けて2種類のツールやサービスが存在する。それは「効率化」のためのツールなのか、「売上」のためのツールなのか、というものだ。

前者は、例えばzoomなどのオンライン会議システムやチャットボットなどだ。人的リソースを下げたり生産性をあげたりするなど、コストを抑えるために導入するツールだ。

後者は主に、売上などの投資対効果をあげるために導入するツールである。例えばアプリマーケティングだったりメールマーケティングだったり、SNSマーケティングだったり、実に多くのMartechが存在する。

この2種類のツールは、このコロナショックによって大きく命運がわかれている。というのも、いまのこのコロナ禍の状況においては、前者は「必要不可欠」なものとして捉えられることが多く、後者は「不要不急」なものとして扱われることが多いためである。

売上が劇的に下がると、積極的に売上拡大を狙う投資は当然縮小せざるを得ない。一方で、コストカットという意識は強く働くため、人的リソースを削減できたり、生産性を向上させるツールがあれば、そこに投資の目が向く。

したがって、このコロナ禍を乗り切るためには、マーケティングのステップ、必要な戦略も大きく異なってくる。下の図を見てもらいたい。

このグラフは2種類のツールの、コロナ禍による需要のバランスを示しているが、現在の緊急事態宣言下、企業はテレワークに必要なツールなど、生産性をあげるために必要なツールに投資をしている。そのため一時的に需要バブルが発生しているのが生産性向上ツールの現在の状況だ。一方でROI向上ツールは"相対的に"見て、それよりも需要は低くなる。

この時に取るべきマーケティングアクションは、以下の通りだ

緊急事態宣言〜ワクチン開発までに重視するアクション
生産性向上ツール・・・①事例/セミナー/製品説明会
B: ROI向上ツール・・・②パネルディスカッション/対談/ホワイトペーパー

生産性向上ツールは、いまの需要をこぼさないように徹底して成約につながる営業活動をすべきである。製品の機能的メリットを十分に伝え、困っている企業に寄り添い、彼らの生産性向上の手助けをすることだ。それは大きなビジネスチャンスになる。

一方ROI向上ツールについては、「アフターコロナ」を見据えた中長期のマーケティング戦略のあり方について焦点を当て、対談動画やパネルディスカッションなどを通じて、視座の高いテーマをアウトプットしていくことが望ましい。目先の売上を獲得するのは困難になるが、クライアント側の経営層は、目下の危機的状況も憂慮しつつ、その先の長期的ビジョン・戦略について思考を巡らせている。いまこの困難な状況のときに、そのビジョンに寄り添い、共に闘う姿勢を見せることで、信頼獲得につながり、中長期的にみて、望ましい結果となるだろう。

また、こうした需要バランスの差は、「ワクチン開発成功」というターニングポイントを経て、需要は一時的に逆転すると考えている。消費者は、おそらくだが、抑えられていた欲求を発散するために、財布の紐は一時的に緩むはずだ。そのときの需要拡大をいかに捉えられるか、というのは、大きなポイントだと思われる。

また、一時的な需要増のあと、ゆっくりと終息に向かって、そのバランスは一定に戻っていくはずである。

未来は誰にもわからないため、これが正解かどうかを断言することはできないが、短期、中期、長期に分けてシナリオを用意しておくべきだろう。

話が脱線したので、近いうちに、今度は左側「デジタル化が困難なExperience領域」について、B2B企業が取るべきアクションについて投稿したいと思う。

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