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ののはホリック

シナリオスクールに行っていたときの課題作品です

あらすじを申し上げますと

AIアイドル「ののは」を開発して発表するはずが、制作期間も資金も足りず結局システム開発者のおっさん「神尾望」が「中の人」として「ののは」を演じる事に

配信などで人気を出そうとするも、そこは中身がおっさんなのでチグハグとして売れるには程遠く…

しかし、おっさんならではの熱さや、くたびれた心にスッとしみこむ親父ギャグなどが1日中家にいるトレーダーの夏野に響く

最初は、夏野と神尾のおかしな二人の会話が続く

そのうちチャットや配信などで繋がる素性もばらばらの仲間たちが増えて、夏野の声に応えて草の根の応援団が結成される。その名も「ののはホリック」

最初は泣かず飛ばずの「ののは」

あまりの売れなさに仲間達もぎくしゃくし始めるが、彼ら一人一人の変化や成長に伴って「ののは」のファンも増えていく

一同は大喜び

しかし、ののはがAIではない事や「中の人」の存在がささやかれるようになるのと同時に神尾の体力にも問題が

全てが露呈する前に美しい引退を決める神尾、いや、ののは

初めての、そして、ラストのLiveは九十九里浜と決まる

夏野は、ののはの引退を受け入れられず、ラストLiveにも向かえない…

さらに折も折、台風が訪れてラストLiveは中止の危機に

夏野は、神尾は、そしてLiveはどうなってしまうのか…

人 物
神尾望(52)システム開発者
夏野敦(38)トレーダー
新尻注(28)ニート
堂満摩羅(22)闇金回収業者
陽野輝子(41)起業コンサル
塩田統(59)舞台監督
響有子(25)音響係
希灯(39)照明係
チンピラ

〇九十九里浜海岸・Live会場(夕)強い風。ステージ前の塩野統(59)

塩野「台風の進行が速い。Liveは中止だ」

大きな画面が設置されたLiveステージ。「ののは」ラストLiveの看板。

○Vチューバ―スタジオ
神尾望(52)、Vチューバ―装置をつけてPC前に座っている。

神尾「…そんな」

床にへたり込み頭を抱える神尾。

〇コーポ柏203号室(夕)
ゴミの中に座っている夏野敦(38)。電話で話している。

夏野「わかってるよ」
堂満(声)「わかってねぇよ!」

〇歌舞伎町・花道通り
若いチンピラの首を捕まえながら電話している堂満摩羅(22)。

堂満「てめぇは何にもわかってねぇよ!」
チンピラ「はい!すいません!」
堂満「おめぇが行かなくてどうするんだよ!」

堂満チンピラを揺さぶる。スマホから輝子の声。

輝子(声)「そうよ!童貞君の言う通りよ!」

〇九十九里浜海岸・Live会場・入場口(夕)
大勢の波の中に新尻注(28)と陽野輝子(41)がいる。

輝子「私達を集めたのもあんたでしょ?」
夏野(声)「いや、でも」
輝子「あぁ!じれったい!」

輝子、新尻にスマホを押し付ける。

新尻「そうだなぁ」

新尻空を見上げる。

新尻「雨も降りそうだし」

〇コーポ柏203号室(夕)
夏野、膝の上で拳を作り震えている。

新尻(声)「来なくても良いよ。なっつん」

〇九十九里浜海岸・Live会場・入場口(夕)
輝子と新尻は、整列の波の中。

新尻「相手はAIだもん」
輝子「ちょっとぉ!!」

輝子、新尻の胸ぐらを掴む

〇コーポ柏203号室(夕)
夏野、部屋の中で正座。拳の上に落涙。

夏野「そう…だよな」
新尻(声)「でもさ」

〇九十九里浜海岸・Live会場・入場口(夕)
新尻は、輝子に胸倉を掴まれている。

新尻「なっつんは、それでいいの?」

〇コーポ柏203号室(夕)
ゴミの中でうずくまっている夏野。

夏野「え…」

夏野、ごみの中から頭を出す。

〇九十九里浜海岸・Live会場・入場口(夕)新尻・輝子、人波の中で押されている。

新尻「なっつんは、これで平気?」

新尻、輝子にどや顔ウインク。

〇コーポ柏203号室(夕)
ごみだらけの部屋。右往左往する夏野。

夏野「俺は…俺はぁあああ…!!」

夏野スマホの電源を切る。

〇九十九里浜海岸・Live会場・音響卓(夜)
ざわつく客席の声が聞こえる。響有子(25)卓に座り、深呼吸して頷く。

有子「塩野さん…すいません!!」

〇九十九里浜海岸・Live会場・ステージ裏(夜)
塩野、スタッフにハケルよう促してる。

塩野「あ?響、今なんか言ったか?」

〇九十九里浜海岸・Live会場・音響卓(夜)
有子、卓に座っている。

有子「灯くん、神尾さん聞こえます?塩野さんの連絡切りました」

〇九十九里浜海岸・ステージ脇イントラ上(夜)
希灯(39)、立ち上がり灯体を掴む。

希「有ちゃん!そうこなくっちゃ!」

○Vチューバ―スタジオ
神尾、スタジオカメラの前へ走り込む。

神尾「ありがとう有ちゃん!」

〇九十九里浜海岸・Live会場・音響卓(夜)
有子、卓の調整をしながら応える。

有子「一曲が限度。それでも、やりますか?」

有子、スタンバイに入る。

○Vチューバ―スタジオ
神尾、カメラ前でスタンバイしてる。

神尾「うん」

両手を祈るように合わせる神尾。

〇九十九里浜海岸・Live会場・音響卓(夜)
有子、卓で口を結んで息を詰めている。

有子「行きます!」

〇九十九里浜海岸・Live会場・客席(夜)
土砂降りの中、祈りながら待つファン。

「さよならの向こう側」イントロが流れる。ステージ中央にスッと光が落ち
て「ののは」の3D映像が流れる。会場、割れんばかりの拍手と号泣と叫び。

ののは「何億光年、輝く星にも寿命があると教えてくれたのはあなたでした」

〇コーポ柏203号室(夜)
玄関のドアノブを握って、震える夏野。
夏野、飛び出していく。

○Vチューバ―スタジオ
神尾、スタジオカメラの前で歌ってる。

神尾「季節ごとに咲く、一輪の花に無限の命」

〇九十九里浜海岸・Live会場・客席(夜)
新尻・輝子が並んでいる。

新尻・輝子「知らせてくれたのもあなたでした」

〇歌舞伎町・花道通り(夜)
堂満、沿道に腰かけて煙草をふかす。

堂満「ラストソングふぉゆー」

〇九十九里浜海岸・ステージ脇イントレ上(夜)
希、泣きながら灯体を掴んでいる。

希「ラストソングフォユー」

〇九十九里浜海岸沿い・車道(夜)
土砂降りの中、夏野がカブで爆走。

夏野「ののはぁあ!ののはぁあ!」

〇九十九里浜海岸・Live会場・音響卓(夜)
卓で操作している有子の背中に手。塩野の手が、機材を止める。

○Vチューバ―スタジオ
神尾、号泣して歌っている。
神尾「約束なしのお別れです…あれ、音が」

神尾、ヘッドセットを掴んで慌てる。

〇九十九里浜海岸・Live会場・客席(夜)
ののはと歌がスッと消える。ステージ
上には、ピンスポットだけ。場内騒然。

〇九十九里浜海岸・Live会場・音響卓(夜)
客席のざわめきが卓にも届いている。

塩野「責任取れんのか、お前」

客席からのざわめきが、歌に変わる。

〇九十九里浜海岸・Live会場・客席(夜)
観客が歌っている中に新尻と輝子の姿。

観客「ラストソングフォユー」

〇九十九里浜海岸・Live会場・音響卓(夜)
塩野、有子を捕まえてた手を緩める。

有子「ののは!聞こえますか!会場が」

○Vチューバ―スタジオ
神尾、ヘッドセットを握りしめて聞いている。涙で震えている。

〇九十九里浜海岸・ステージ脇イントレ上(夜)
希、ゆっくりと客席にライトを向ける。

〇九十九里浜海岸・Live会場・客席(夜)
土砂降りの中、大勢の観客。歌は続く。

〇九十九里浜海岸・Live会場・入場(夜)
土砂降りの中、夏野が爆走している。

夏野「ののはぁあ!」

〇九十九里浜海岸・Live会場・客席(夜)
観客席には新尻・輝子。

観客「さよならの、代わりに」

スポットライトが消える。夏野が走り込んでくる。

輝子「なっつん!」

夏野、悲しそうに頷いて涙を流す。

夏野「うん、うん、いいんだ、うん」

夏野、輝子、新尻抱き合って泣く。夏野笑顔を作ってステージを見上げる。
ステージに雷。三人の顔を照らす。

○Vチューバ―スタジオ
神尾、寂しげに電源の切れたPCを見つめ、扉を出て行く。神尾の背中でP
Cの電源がひとりでに入り「ののは」を写す。ののは、静かに神尾の背中を
見送り一礼。神尾は気づかない。


「さよならの向う側」
作詞 阿木燿子 作曲 宇崎竜童 

シンガーソングライターわたなべまきの歌でお聴きください

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