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雨の日と日曜日は

登場人物

七瀬海斗(28)発明家
七瀬春(23)海斗の妹

○七瀬家・リビング

七瀬海斗(28)と七瀬春(23)、が二人でテレビゲームをやっている。

春「ねぇ、兄ちゃん」

海斗「ハンデは無しだぞ!真っ向勝負だ!」

春「そうじゃなくて」

海斗「なんだよ、良いところなんだからトイレくらい我慢しろよ」

春「トイレでもなくて」

海斗「早く言えよ!」

春「私」

海斗「お!アブね!」

二人コントローラを持って一緒に傾く

春「私ね、実は」

海斗「来た!」

ボス戦の音楽。二人前のめって画面をギュッと睨む

春「私!東京に出る!」

春コントローラのボタンをエイっと力強く押す。バリバリバリとやっつけた音。

海斗「おう、土産頼むな」

春「え?遊びに行くんじゃないよ?」

海斗「は?」

春「向こうに住んでアーティスト目指す!」

海斗「あぁ?」

海斗春の方を見て固まる。春はコントローラーを離さず画面を見つめたまま。クリアの音。一瞬の間。海斗再びコントローラーを握って画面に向かう。

春「ねぇ…」

海斗「え?」

春「東京」

海斗「無いから」

春「どうして」

海斗コントローラを置いて

海斗「だって!お前!どうすんだよ!一人で!俺!」

今度は春がコントローラーを止めて海斗を見て固まる。 

春「大丈夫だよ、きっと。」

海斗「ココに一人じゃさぁ…」

春「料理とか掃除とか大変だと思うけど」

海斗「そういう事言ってんじゃなくてよぉ!」

春「貴子さんがいるじゃない!」

海斗「おぉ!貴子な!」

マリオの死んだときの音

海斗「振られた」

面クリならずの音

春「えぇ!どうするのそれ!えぇ~!?」

海斗「なんで春が動揺してるんだよ」

春「だって、それ、なんで、どうして」

海斗「知らねぇよぉ」

春「話が違うよぉもう駄目だぁ!わーん!」

海斗「なんで春が泣くんだよ」

春「兄ちゃん一人置いて東京…行けないよ…」

ゲーム音楽再開。海斗春を睨みながらコントローラーを握って

海斗「お前ね、俺の事幾つだと思ってんの」

春「見た目は三十路、知能はみっつ」

海斗「名探偵海斗!いや、誰がだ!」

春「めいたんていのめいは迷う方のやつ…」

海斗「発明家を捕まえてなんてこと言うんだ」

春「発明家っていうより付箋屋さんじゃん」

海斗「いくら春でも許さんぞ!」

海斗コントローラーを置いて辞書とデカい付箋を取り出す。

春「やばい始まっちゃった」

海斗「この“辞書と仲良しペーパー”は何度も引く言葉がすぐに見られて」

辞書からでっかい付箋がペロッと出てくる

海斗「これまでに何度引いたか正の字で書き込めて優先順位がわかるんだ!」

春「だから付箋でしょ?」

海斗「まったくわかってないな春は!」

春「大体このネットの時代に紙の辞書を誰が引いてるのよ?」

海斗「くりえいてぶな人々だ!」

春「は?」

海斗「現在の脳科学で実証されているんだ!実際に手を動かして紙を触り文字を書く事で…」

春話をさえぎって

春「キーボード打ってても手は動いてるよ。今ならネットで質問だって出来るのに、辞書と付箋って」

海斗「質問?そうか!お前は天才だ!」

春「え?」

海斗「この付箋に家族への質問を書いてコミュニケーションを深めるんだ!」

春「付箋って言っちゃてるじゃん」

海斗「名付けて“家族と仲良しペーパー”」

春付箋を奪って書く

春「料理も出来ないのに発明ってどんな感じ?」

海斗その付箋を取り上げて書く

海斗「別に出来なくていいじゃん」

春「私が東京行ったら」

海斗「行ったらなんだよ」

春「料理も掃除も…」

海斗、そっとゲームのリモコンに手を伸ばし画面に向かって口をとがらせ体育座り

(マリオの曲)

海斗「我が家のルールは」

春「ゲームで決める!…って流石にこれは!」

海斗「やんのか!やらんのか!」

春反射的にコントローラーを握る

海斗「良いか、やるからには勝て」

春「え?」

海斗「目を離すな!」

春「う…うん!」

海斗「夢から目を離さずにそこを打て!」

春「はい!」

春コントローラーを持って踏み込む

クリアの音

海斗「あぁあ~負けちゃったなぁ!」

春「え?勝っちゃった」

海斗「ゲームは絶対だ!行ってこい!」

春「兄ちゃん…わざと」

海斗「俺はそんなに甘くない」

春「ごめんなさい」

海斗「なんで謝るんだよ~!胸をはれ!」

春「ありがとう」 

海斗「うん」

   春泣く 

海斗「やめろよぉ~」

  海斗春を抱きしめて背中トントン
  ドラクエのオープニング曲
  二人音楽に合わせて一歩ずつ離れる
  宿屋に泊まった後の音楽

海斗「ふぁあ!!おい春~?春?」

   おでこに付箋が貼ってある

海斗「なんじゃこら。お兄ちゃんへ」

春「突然出て行ってごめんなさい」 

海斗「え!?」

春「お兄ちゃんが東京行き許してくれて本当に嬉しかった。お兄ちゃんの顔見られなくなるのわかってて一緒に居るのがつらくて。黙って出ていく事にしました。」

海斗「そういうとこだよお前はぁ」

春「勝手なことしてごめんなさい。父さんと母さんの命日には必ず帰ってくるから」

海斗「当たり前だ馬鹿もん!」

春「兄ちゃん…怒ってますか?」

   海斗付箋に書きつけながら

海斗「あったりまえだ!勝手に出ていきやがって!東京は何があるかわかんないんだぞ!言って置きたい事も沢山あったんだ!繁華街だって危ないんだから近寄らないように。お人よしなんだから騙されないように。特に男には気をつけろ!男は残念ながらみんなバカだからな!あと!出来るだけ…帰ってくるな。チャンスの女神は前髪しかないんだ」

海斗書いていた付箋をくしゃっとつぶして
新しい付箋に書き込む

海斗「東京バナナ」

春「は?東京バナナ?これだけ?怒って…ないのかな」

戦闘の音楽。二人ともハッと顔を上げて目の前の敵を倒すような仕草

春「アーティストになるとか言ったけど、予想以上にバイトばっかりで何も進まない!このままではバイトリーダーになってしまう!」

海斗「思いのほか家事が大変だ!もはやこの洗濯物の層がいつのものなのかわからない。とりあえず匂いで分けてみよう」

SE ピーンポーン 

春・海斗「はぁい」

海斗、宅配便の段ボールを受け取る。
春、ドアを開けて驚くが嬉しそうに頷いて出ていこうとする。その前に慌てて戻って正面キリで台詞

春「兄ちゃん、ちゃんと食べてる?どうせインスタントとかコンビニ弁当ばっかり食べてるんでしょう!作り置き送っとくからちゃんと食べてね! 春」

海斗「良いよこういうの、めんどくせぇな…でも」

海斗付箋を取って書きつける 

海斗「ありがとう、元気で頑張ってるか?東京は変なやつが多いから気をつけろよ。夢は、叶わないと思う時にも、いつもお前のそばにいるからな。俺、みたいにな。」

海斗書いた付箋をみて固まる。クシャっとつぶす。新しい付箋をだして書きつける。

海斗「雷おこし」 

春「兄ちゃん…私…大丈夫かな」

春いったん出ていく。雨とピアノの音。   
春が嬉しそうに微笑んで戻ってくる。
そのままヘッドセットをつけてパソコンの前に座るそぶり。かぶりつき。
海斗頭を拭きながら入ってくる素振り。

海斗「うへぇひどい雨」 

ピコンピコン

海斗「お、やべぇやべぇ」

海斗ヘッドセットをつけてパソコンの前
に座るそぶり。

春「遅いよ兄ちゃん時間は合わせてよぉ!」 

海斗「ごめんごめん、雨降ってきちゃってさ」

春「いくよ!お!早速後ろ来るよ!」

海斗「おうおうおう!こえぇな!」

ゲーム音。海斗身体を左右に動かしながら避けるそぶり。 

春「右から二人!」

海斗「よしきた!」

パソコンを操作するそぶり 

海斗「よしよしよし、この小屋にいったん
隠れよう!」 

春「おっけぇい」

海斗・春「ふぃいい」(深いため息) 

しばしの間。春ジュース飲むそぶり

海斗「なんかよぉ」

春「うん?」

海斗「あんま変わんないな春が東京行っても」 

春「まぁた、強がっちゃって」

海斗「だって、いつでも連絡も出来るしこうしてオンラインゲームも一緒にし」

春「来たうしろ!」

海斗「うへぇ!」

銃声 

春「あっぶね」 

海斗「大丈夫か!」 

春「生きてる」

海斗フッと笑う

海斗「確かに、二人とも生きてるな」

春「確かに」

二人笑う

海斗「こないだのオーディションどうだったの?」 

春「うん?あぁ、えぇっと、まぁまぁかな」

海斗「結果まだ出てないのか?」

春「いや、うん、まぁそろそろかな」

海斗「そっか」 

春「うん。あ!やばい!」

キャラの断末魔

海斗「珍しいな春が先に死ぬの」

春「おぉ、春死んでしまうとは何事じゃ…」

ピンポーン

海斗・春「はぁい!」

春「あ、ごめんお客さん」 

海斗「こっちもだ、また明日な」

春「あ、ごめん、明日用事あって」

海斗「あ~、そうか、じゃあまた連絡する」 

春「うん」

春・海斗それぞれ扉を開ける

春・海斗「あ」

ピアノ

春・海斗付箋に向かう

春「書けない…」

海斗「うぅうん!」

海斗書きつけようとペンを上げたり下
げたりする 

海斗「スカイツリー最中!」

春付箋を広げる

春「…そんなものあるの?ったく兄ちゃんはのんきで良いなぁ。知らぬが仏ってやつか。あれから一週間、私は一向に大事な事を伝えられないでいる。ごめん。にいちゃん。」

海斗「あれから三週間。一向にゲームにも上がってこないし。ラインの返事もスタンプだけ。ちょっとかなり心配だ。でも家族は見守る事が大切だから余計な事は言わないのだ」

海斗付箋を出す。


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