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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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#詩

自滅衝動

ねぇ兄さん一杯飲んで行かないかい?

お安くしとくよこの子犬

キャンと言ったらあんたのもんだ

お好きな名前をつけてお飾り

可愛いリボンをつけてお飾り

どうなとしても構いません

さぁ持っていらっしゃいあなたの子犬

あなたの秘密を暴いて溶かす

可愛い子犬はいらんかえ

沈む鬼灯

さんさんと降る雨に

しっとりと濡れる招き猫

いつからそこにおいでだい

誰も来やしないこんな夜更けの商店街

割れたネオンがジリリと鳴って

パチンと弾けた明日への希望

落とした簪が川に流れていったってねぇ

あんた忘れてしまうのがそんなに怖いのかい

夜の裂け目

夜会巻き

髪を束ねて紅を引く

季節外れのボロのセーター

ギュッと大事に握りしめ

これが最後と腹に決め

もうもうこれで会わないよ

捨ててやるのさ虹の果て

愛に終わりはなけれども

見果てぬ夢に果てはある

そら、この手を開くだけ

そら、この指開くだけ

そうすりゃ

錆びた扉を開けゴマ

ソドムとゴモラの果ての果て

金字塔を打ち立てた野球選手

夏休みを待つ白い子犬

風の吹きやる誰も来ない洞窟

今だけ耳を貸してご覧

聞いてみたかろ本当の事を

あの子の隠した小箱の意味を

虎希

待ってたんですよ

あなたがそこから出てくるって仰るから

ずっと

この屏風の前で

待ってたんですよ

そこから出てきて私を噛み殺してくれるのを

ずっとね

今じゃあすっかり年老いて

私じゃ食べるところもなくなってしまいましてよ

ねぇそろそろ

私がそちらへ参りましょう

回転舞踊

ヒンメリの糸クルクルと

回転軸がずれていく

わたしとあなたの区別がつかぬ

右と下半身の区別がつかぬ

足と乳房の区別がつかぬ

溶けて溢れて忘れて混ぜて

も一度踊って見つけましょう

この天国にも出口はあるの

そもそも出なくちゃいけないの?

意気衝天

がめついきゅうりが西向いてわぁらった 

あははの声に応えて猪が走り出す

突き当たりの店で大人の絵本の最新刊が出たってさ
  
バッタが肩を狙ってエイやと跳ねれば

すんでのところでみよちゃんの下駄の鼻緒が切れたとさ 

あぁこの空の向こうに龍が飛ぶ

刺客

大根を抜いた穴に人参を植えて

牛が生えてくるの待ってんだよ

あんたの靴より肥立ちがいいって評判だよ

そろそろ完全無欠のサンダーライガーが空から降ってくるよ

敵わないねぇ

最近は天気予報も当たらないから

100mバタフライで IQ150だってさ

あんたも気をつけたほうがいい

収まる所に収まって

緑の夜が続いたものだから

あなたの香りが田んぼにまで染みて

ずいぶんと目眩がします

泥だらけの私の足を救い上げてスルリと風で洗ってくれましたっけ

揺れる私の足とあなたの肩

涙のように流れた汗が金色に輝いて私はどうと気を失って

ぷっくりと丸くて白いカブになりました

丸くツタの生えてそびえたつ

張り詰めて凍るくるぶしを

誇らしげにかかげて空を歩く

どこまでもいけると

あの時は思った

あの時は誓った

宣誓の声高らかに
 
360度の悲しみを

遠くサイレンのように響かせたあの日を

私はそれでも誇りに思う

今はそこにいなくても

回廊に住む集落

バッタが飛んだら

養殖のブリが海に帰るんだ

先だって亡くなったおじいさんのらくだが出てきたって

山もそろそろ燃える頃だね

観音菩薩の鼻先みたいに可愛らしい

あの子はどこへ嫁に行ったんだっけねぇ

待ち合わせ

鼻緒が切れて背中が熱い

涙とコーラで冷やしたら

億年前から知ってたと

星が流れて包まれた

あぁ、そうでした

黄泉比良坂越えてきて

ようやとあなたに会えました

きっとあなたを待ってます

毎度の闇夜で待ってます

迷子の漂流者

葡萄が熟れて色付くように

あたいも瓶詰めされてくの

綺麗なおべべで荷馬車に乗って

てんつくお宿へ向かいます

とうとう流れてつきました

最後の宿までつきました

売って売られて

記憶の果てに

とうとう飛んでいきました

明日も今日も昨日もなくて

カラカラと

風に吹かれて消えました

頂を目指す鯨達へ

頂を目指す鯨達へ

‪雨、雨、雨‬

‪降らず降る降る‬

‪アメ、アメ、アメ‬

‪溶けて流れる‬

‪消えてしまえさんざめく鯨の亡霊達‬

‪葬列はまだ先だ‬

‪重い苦渋の肢体を引き摺って‬

‪進め‬

‪その腹が擦れてねじ切れても‬

‪弔うにはまだ早い‬

‪自らの墓場へ己が足で向かう‬

‪用意された簡易な白い箱などに入ってはならぬ‬

‪その高貴な身をこそ守りたれ‬