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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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2020年9月の記事一覧

ひらりと消ゆる

掌の花

うすばかげろう

食べられもせず枯れていくイチジク

朽ちてなお冴え冴えと光る甲虫の背中

雨の中に佇む1匹の蛙にゃおと鳴く

聞こえてくるよ

はて、面妖な

愛されたいの大合唱

響き渡る夜更

5時間で夜が明ける

その秘密を誰が隠した

じっちゃんの名にかけた頭脳はオケラ身体はキメラの名推理

それはロバの蹄の中にある

その蹄掻っ捌いてよこせ

よこせよこせの大合唱

逃げ切ったロバが身篭った秘密をクビって捨てる

飛び込み台

寝ている間の夢は誰にでも自由

飛び降りた窓

見知らぬ少女に見咎められて落下速度早まって転がる

チキリチキリと髪の間に砂のざらつき

鉄の錆びた味キャンディを頬張って問い詰めたとうへんぼく

脆弱な呼吸の下で柔らかなミミズの夢を見る

土を耕す夢を見る

地球の裏側まで届け

周到に捕まえる

くるくる回る日の光

ガトーショコラじゃ近づけない

ぼんぼり二つ子髪に留まって

カマキリの刃のやるせなさ

君にたどり着くまで何度も掴んでまた離す

今捕まえたのと運命を気取る

紅く色付く葉

いよいよ所在ない肋骨の細胞

ついに騒ぎ出す下腹の奴隷たち

色街灰被り姫

いやしくて
汚らしくて
品のない

そんな自分に見合う夢

午前3時に白い馬の嘶く

公園から奥を抜けるとお屋敷がありまして

細々と気遣いの金物屋

足を洗うタライの水に落ちるイチョウの葉

錦鯉も空を飛ぶ

吹き流して5月の風

いつか許せるその日まで

触れもみでお七の魂残らず焼べる

あなたを想えば身体が震える

喉から手が出る

アディクション

禁忌の扉

ガマの穂の弾ける

奥歯がギリギリ

冷や汗脂汗

自意識が蒸発して上昇

雲になって雨を生み降らす

そうだ

雨になればあなたに会える

半鐘の鐘でハタと気付く

火をくべて燃やす我が身

夏の終わりに取り残された切り取り線

緑と黒を繋いだ異世界の植物

空き瓶の中の銀色の小魚

果てない夢を見続ける一つ目小僧

ペテン師の講釈を真に受ける

すっかり疲れて柳の枝先

見返って裾を引く

ねぇだんさん

いくらあたいが売女だってそんな仕打ちはねぇわいな

きまぐれにちょろまかす夜店の杏飴

さまよってヒトリ

がんぜない子の母を慕う声

いや、あれは狼の声

列車が終点に向かう音

深夜、自己と言う膜を保てず放つ咆哮

あぁ身体ごとジンに浸かって夜爪を切る

パチリパチリと意識の遠のく

外連味のある芝居も食い飽いた

けれども帰る家の無うなった

彷徨う紫の霧

光に照らされて消える

小麦粉の焦げた匂い

杏ジャムの瓶に夕陽を詰める

ゴウンゴウンとコンベアーで運ばれる

坂道を転がるオレンジ色の恋心

こづまをとってちょいと微笑む

竹や竿だけ

頬杖で支えるのは零れそうな慕情

ラジオでガサガサとスピッツが歌ってる

コールタールと鮮烈の配線

上から黒で塗りつぶす

浮き上がらない色彩

消える感情

時々金釘で削られて

出血する想い

返して返して

私の滴

ぱちぱちと

とんとんと

ぽんぽんと

叩く手の優しい音に

ぱちぱちと

ちりちりと

弾ける音の温もりに

もう少しだけ身を隠す

あまりに照らしてくださんな

手負いの熊なら逃してくれろ

そのうち日も昇る

UMA

そんなこと

あるわけないと

青いコップに午後の光を落として飲み干す

僕の鼓動

君の鼓膜に届いて消えろ

白いテーブルクロスが白日の元に晒す涙

いつか乾いて団地のベランダに揺れる

明日は午後から綿毛が降るってさ

膨らんだビニール風船

はないちもんめで残されて
ドッチボールで生き残り
ひとりは手慣れておりまして

ええそうなんです3月の
早咲き桜の下ですよ

よく見えますでしょ
向こうの丘が

高野さん家がよく見えます
いささか帰りたくはありますね

もしも、身体があったなら

ですけども

汗ではりついた下着のまま旅に出る

女々しいと
目々しいと

あんたはそれをお言いかい?

それもまたそうかもしれないね

頸動脈に沿って流れた決意が地面に還って赤い川を作る

それも腰痛のバームクーヘンが下関で降りてくさやを手土産に里帰りでもすりゃ

収まるところに収まるだろうさ