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星に願いを

もし、願いが一つだけ叶うなら、
どうか――



「なあ、知ってるか、今夜、数千年に一度しかない流星群が降るらしいぜ」

机で寝たフリをしていた私の隣の席で、何人かが集まって話をしているのが耳に入った。

「なんか特別な星に願い事をするとそれが叶うらしいよ」
「特別?それってどんなの?」
「形が違うとか?」
「いや、形なんてわかんないでしょ」
「じゃあ色が違うとか」
「なんか嘘くさいな」
「ただの迷信でしょ」

そんな会話を心を無にしながら聞いていた。

ふと、誰かのいつもとは違う視線を感じ、少し顔を上げた。その会話にいたうちの一人の子と目が合った。何か言いたげだったが、私は期待もせず再び寝たフリをした。

そして、ちょうどいいと思い、今夜決行することに決めた。


午前2時、スマホの明かりを頼りに、廃墟のビルの階段を登っていく。

屋上につき、空を眺める。
数分後、一つ、また一つと空を切り裂くように星が流れてきた。
その度に声が聞こえてくるようだった。
「あいついつもノリ悪いよな」
「何考えてるか分からないよね」
「自分が特別だって思ってるんじゃない?」
「なんか気持ち悪いよな」
その言葉たちに背中を押されるように少しずつ足を踏み出し、地面と空との境界線に立った。
あと一歩、あと一歩踏み出せば私もあの空に降り注ぐ、その一つになれる…。

そして、ついに私は、空を切り裂いた。

その一瞬のようで永遠のような時間の中で私は願った。
最期に、もし、願いが一つだけ叶うなら、どうか、どうか次は、


――誰かと笑い合えますように。


人との関わりを断ちたかったのに最期に誰かと一緒になんて、皮肉なものだ。
…いや、本当はずっと誰かと関わり合いたかったのかもしれない。こんな綺麗な星空を、誰か一人でもいいから一緒に笑い合って観たかった――

その低い空を切り裂く星は、他の星と形も色も違った。そんな「特別」な星は、ただ一つの願いを乗せ、消えていった。


――――――――――――――――――――――


「なあ、知ってるか、今夜、数千年に一度しかない流星群が降るらしいぜ」

隣の机で寝ている子をよそ目に会話が始まった。

「なんか特別な星に願い事をするとそれが叶うらしいよ」
「特別?それってどんなの?」
「形が違うとか?」
「いや、形なんてわかんないでしょ」
「じゃあ色が違うとか」
「なんか嘘くさいな」
「ただの迷信でしょ」

そんなことを話しながら、ふと、隣の机で寝ている子が気になった。
話したこともなく、名前さえも曖昧だったが、何となく見つめ続けた。

その視線に気づいたのだろうか、少し顔を上げたその子と目が合った。
すぐに顔を伏せようとしており、私も目を離そうとしたとき、視界の隅に映った空に一筋、何かが落ちたような気がした。そして、それと同時に何か声をかけなければいけない気がした。
「ねえ...」
その続きの言葉も考えもせずに話しかけた。

少しの静寂の中、まるで、いつ降るか分からない流れ星を観上げるかのように、その子は次の言葉を待っていた。

私は少し息を吸い、そして一つ、星を流した。

「一緒に見に行かない?流星群」

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