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都市DXってどんなもの?

横浜都市デザイン50周年が2023年の年明けから「未来を描く」フェーズに入ってきました。

横浜が今のような街を形作ることに大きく貢献した都市デザインですが、六大事業などの終わりが見えてきた現在、未来の都市デザインには、たくさん人々の営みのアウトプットとして街に隠れているデータとそれを活かすためのデジタル技術、そしてその先にある変革(DX)という視点をインプットすることが重要ではないかと個人的に感じています。

どんな場面でどんなデータを使うか

とはいえ、それを想像することはなかなか難しいので、平成27年度に横浜市都市デザイン室が策定した「横浜都市デザインビジョン」の別章にある「風景スケッチブック」を引用して、その中にある営みのシーン例を題材に少し紐解いてみたいと思います。
「都市デザイン活動を始めるために個々が思い描いた風景や他者と議論・共有した風景」としてスケッチブックに描かれている以下の7種類の風景ごとに、私なりに考える「都市デザイン×データ&デジタル活用」の風景をインプットしてみたいと思います。

01.臨海部(工業地)
02.都心臨海部01
03.都心臨海部02
04.高密度な既成市街地
05.郊外駅前および周辺
06.郊外住宅地
07.緑と農のある郊外

01.臨海部(工業地)

都市デザインビジョン別章より

利用されずに眠っていた工業跡地が土地や建物の良さを活かしながら活発に再利用されている。

【役に立ちそうなデータ】用途地域や歴史的建造物一覧、施設一覧、地図データなど。
どこにどんな土地や施設があるのかを広く共有しながら利活用の議論を進めることや一時的な利活用をしたうえで賑わいを生み出すなどができそうです。
最近法務省の登記所備付地図データも公開されているので、それも役に立つかもしれません。

工場とその周辺の環境に魅力を感じて、働く人や訪れる人など様々な人が行き交い、にぎわっている。

【役に立ちそうなデータ】観光産業、イベントデータ、公園や施設、緑化データなど。
イベントは過去の入れ込み客数などもデータ化しておいて、天候データなどと突き合わせることでどんなイベントが人気が高いのか分析できそうです。

工業地帯が緑にあふれ、その維持・管理をみんなで協力して行っている。

【役に立ちそうなデータ】生物多様性について生息地を調査したデータやイベント、緑化率、市民活動データなど。
生物多様性といえば京浜臨海部で20年に渡り行われているというトンボの生息調査のような取組みはめちゃくちゃいいと思います。

02.都心臨海部01

都市デザインビジョン別章より

海から見た視点を意識し、美しい港の景観が創り出されている。

【役に立ちそうなデータ】Plateauなどの3D都市モデル、様々な方が撮影した画像データ、観光施設、公園一覧、緑化率など。
横浜は海から見た時に街が美しく見えるように景観が構成されていますが、3D都市モデルを利用することで、実際に見た時にどうなるのかと言った自由な視点を得ることが可能となります。ちなみにCode for YOKOHAMAでは、3D都市モデルを使ったまちづくりインターフェースの取組みを行っています。

川辺・海辺の解放が進み、水辺が市民の日常的な憩いや観光目的地の中心となり、様々な体験が提供されている。

【役に立ちそうなデータ】商業施設データ、イベント、アートスポット、水質などの環境センシングデータ、生物多様性、水上交通用船舶運航データ、水辺愛護会などの市民活動データなど。
水辺を活かしたまちづくりは都市デザインの大事な視点ですね。
いつ、どんなイベントが開催されているのか、どんな団体が活動を行っているのか、水質が改善されているのかどうかなど様々な見える化ができそうです。

道路・公園等の公共空間が建物とともに活用され、観光客が市民も区別なく、楽しい交流が生まれ、居心地のよいまちとなっている。

【役に立ちそうなデータ】公開空地などのオープンに利用できるパブリックスペースの一覧、規制データ、街路樹などの種類、SNSを活用した人流データなど。
規制か賑わいかのような二択ではなく、規制も大事にしつつ、人々が居心地よく交流できるにはどうしたらいいかということをデータで紐解くことができると思います。

歴史的景観が面的に保全され、歴史的建造物の活用・再生が進み、文化・芸術・観光・MICEに資するユニークベニューとして積極的に活用されている。

【役に立ちそうなデータ】歴史的建造物一覧、オープンウェディングスポット、芸術不動産、アーティスト・クリエイター一覧、アートスポット、水際観光資源など。
ユニークベニューとは、歴史的建造物、文化施設や公的空間等で、会議・レセプションを開催することで特別感や地域特性を演出できる会場のことです。横浜は国際会議場のある街ですので、大きな会議に合わせて色々な場所でサテライト的にミニカンファレンスが開かれているなどの光景は想像するとちょっとわくわくしますね。

03.都心臨海部02

都市デザインビジョン別章より

都心環境が向上し、国内外の多くの人が訪れたり、移り住んだり、働いたりしている。

【役に立ちそうなデータ】用途地域、公共交通、MaaS、イベント、3D都市モデルを使った夜景やライトアップシミュレーション、ビジネス環境、不動産、ウォーカブルスポットなど。
歩行者空間を大切にするというのも50年前からの都市デザインの大事な視点ですね。
大手企業の研究開発拠点が立ち並ぶみなとみらいと対照的に、そのすぐ隣の関内界隈には雑居ビルが多くあり、スタートアップ拠点があるという環境なので、その両方が自転車や徒歩で移動しやすくなっていたり、夜に賑わいを生むイベントなどが開かれているようになれば、様々なビジネスが起こりやすくなるのではないでしょうか。

眠っている空間や低利用だった空間が、個性的な空間として生まれ変わって新しい使い方をされている。

【役に立ちそうなデータ】イベントスポット、コミュニティ施設、公開空地、デザイン調整事例、歴史的建造物一覧など。
今は古い建物を活用した古民家カフェやキッチンカーなどもあちこちで見かけるようになったので、そういう装置を使った賑わいが生まれるようにできると街が楽しくなりますね。

人や環境に優しい公共交通など、移動手段が多様化し、都心臨海部をワイドに移動・観光できるようになっている。

【役に立ちそうなデータ】公共交通データ(GTFS形式だとGoogleMapに反映されてなお良し)、シェアバイクなどモビリティサービス一覧、ウォーカブルマップ、サイン、道路インフラデータなど。
交通データは観光客などにも便利なものだと思うので、積極的に利用していきたいところです。

様々な分野や職種の人が住み、働くまちとして定着し、文化・産業・教育が活発なまちになっている

【役に立ちそうなデータ】芸術文化施設、イベント、スタートアップ拠点やそこで行われるイベントの数や得られた投資額、子育て支援スポット、自治会町内会を始めとした地域コミュニティのデータなど。
定性的・定量的データの双方をうまく組み合わせて見える化を図りたいところです。

04.高密度な既成市街地

都市デザインビジョン別章より

坂道など地形を生かした景観を意識した環境がつくられ、地域全体で保全活動をしている。

【役に立ちそうなデータ】用途地域、標高、道路インフラ、地域コミュニティ、コミュニティイベント、公園、緑化など。
その地域がどんな地形的特徴をもっているのか、道路や公園はどのように整備され、それらのコモンズを地域としてどのように維持しているのかなど様々なデータを組み合わせることで見えてくるのではないでしょうか。

災害対応力を高めつつ、坂道や路地、小広場を魅力的に演出するなど、下町らしい風情も感じるまちづくりが進んでいる。

【役に立ちそうなデータ】用途地域、建物の建築年数、避難場所、公園、公開空地、イベント、道路インフラ、急傾斜地など。
いつ来るかわからない巨大地震に地域として備えることや、災害の激甚化に伴って、ますます注意が必要になる急傾斜地の管理などもデータとデジタルの力が必須になっていく分野ですね。

路地の雰囲気や木密密集地域ならではの特徴を活かし、子どものための遊び場や地域住民が交流する場が生まれている。

【役に立ちそうなデータ】空き家、営業許可、公開空地、公園、道路幅員、地域コミュニティなど。
このあたりはパターンランゲージ的な要素が強く出る分野ですね。
地域の人が集える場所や機会の創出のために様々なデータを活用していける場面かと思います。

05.郊外駅前及び周辺

都市デザインビジョン別章より

だれもが移動しやすく、使いやすい、ユニバーサルデザイン志向のコンパクトな駅周辺が形成され、常に人が行きかい、にぎわう駅前になっている。

【役に立ちそうなデータ】道路幅員、用途地域、公共交通、サイン、バリアフリー(道路段差や点字ブロックなど)、イベント、公共or商業施設、地域コミュニティデータなど。
歩行者と一口に言っても、二本足で歩く方から車いすの方、杖をついて歩く方など色々なバリエーションがあるので、全ての人達に楽しく歩きやすい環境にしたいところです。
周辺のセンシングデータなども提供できれば「AIが案内してくれる白杖」みたいなものを作ることもできるのではないでしょうか。

駅前に生活支援施設や地域の人々が集える広場があり、店舗などが出店し、豊かなコミュニティが生まれている。

【役に立ちそうなデータ】イベント、農業、公開空地、公園、公共施設、地域コミュニティ、エリアマネジメント団体データなど。
公開空地に関しては、あまり活かされていない場合もあるようなので、そうした場所がどこにあるのかというデータや、そもそもそこを使うためにどういう手続きを踏んだらいいのかもわからないという場合も多いので、データと共にそういう仕組みも提供できるといいですね。

工場・工房のあるまちが「ものづくりの営みがあるまち」として人気となっている。

【役に立ちそうなデータ】不動産、用途市域、ファブラボ、スタートアップ支援、イベント(オープンファクトリーなど)、地域コミュニティデータなど。
住工混合は、六大事業を進めた時期から長きに渡る横浜の課題だったと思いますが、最近は3Dプリンタなどの登場でものづくりも身近なものとして見直されつつあるので、逆にそういう部分を前面に推していくことでものづくりをしたい人達のコミュニティ形成などもできるのではないでしょうか。

06.郊外住宅地

都市デザインビジョン別章より

郊外の住宅地が徐々に再生し、新しい郊外ライフが営まれている。

【役に立ちそうなデータ】商業施設、空き地・空き家、農業、商業、用途地域、MaaSデータなど。
横浜でも郊外部で移動に関する問題が徐々に大きくなってきていることを感じるので、自動運転やカーシェアリングの移動手段解決に関するデジタルの積極的な活用や、そもそも移動を最小にできるようなコンパクトシティの考え方はこれからますます大事になっていくと思われます。

団地ならではのゆとりある建物や敷地の特徴を活かして、多様なライフスタイルにあった再利用がされている。

【役に立ちそうなデータ】団地、公園、公開空地、スタートアップ支援、サテライトオフィスなど。
新しいもの好きの日本人も最近は古民家再生やリノベーションといったことに目が向くようになったなと感じます。
団地は、そもそもの設計思想からか建物の間の空間がとても広かったり、豊かに緑が配置されていたりする場合が多いですし、多くの人がともに住んでいる場所としてコミュニティの活性化を図ることができるのではないでしょうか。

都心で働く必要のない人が移住したり、平日は都心で働く人が週末利用する住宅として空き家が利用されたりしている。

【役に立ちそうなデータ】空き家、不動産、税制、農業データなど。
リモートワークの普及に伴って地域内で過ごす人も多くなり、自分の住んでいる地域のことをよく知るようになったという声も聞かれるようになりました。
仕事と居住が密結合ではなく疎結合になると、自由な移動が可能になりますので、横浜の都心部に住んでいる人が週末は金沢区の海の近くにある家に帰るといったライフスタイル選択が可能になるのではないでしょうか。

廃校となった学校が用途転換されるなどして、地域を支える新たな拠点となっている。

【役に立ちそうなデータ】公共施設、用途地域、スタートアップ支援、地域コミュニティ、助成制度、協働データなど。市立学校が500校もある横浜では、これから廃校利用の議論はますます増えてくることが予想されますし、現役稼働中の学校でも維持費などの問題は大きくなる一方だと思いますので、単なる教育の場だけではない地域の拠点としての「学校」の在り方は今後多様性を持たせることが重要になると思われます。

07.緑と農のある郊外

都市デザインビジョン別章より

昔からの曲がりくねった道が、歩行者や自転車等の主要動線として使われ、健康的な暮らしが営まれている。

【役に立ちそうなデータ】道路インフラ、ウォーカブルマップ、ウォーキングイベントスポット、MaaS、健診データなど。
先日海の近くのとあるカフェで「リモートワークで家にいると煮詰まっちゃうんで、散歩とかで気分転換しながらあちこちで仕事するんですよ~。」とお話する方に出会いましたが、地域の中で仕事しながら暮らすというのはそういう風景になるのかなと感じましたし、リモートワークでなまってしまう身体にとってもいいことだろうなと思いました。

鳥や虫などの多様な生物や地形・植生とともに暮らすライフスタイルを選ぶ人が移住してきている。

【役に立ちそうなデータ】生物多様性、河川、緑化、公共施設、地域コミュニティなど。
昨年、横浜のとある郊外部に蛍を見に行き、例年の比ではないたくさんの蛍を目の当たりにして、みなとみらいのような場所がありつつも、そうした光景が見られる横浜の多様性に感動したことがあります。
物言わぬ昆虫などの生物なども「ともに暮らす仲間」として大切にすることも大事だなと心から思いました。

大都市近郊の利点を生かした農業が継承され、新規就農者も増えて定着してきている。

【役に立ちそうなデータ】農業、地場産業、飲食店、用途地域、イベント、税制データなど。
都市農業の特徴として「消費地が至近にある」ということが挙げられると思います。
とはいえ、その場合は消費してもらえるレベルのものを作ることや、流通なども問題もありますので、そうした課題にデジタルが活用できる余地は大いにあるだろうと思います。

樹林地や里山に日常的に親しみ、自ら管理作業も行っている。スポーツができる場所も多くあり、身近なレジャー、健康づくり、趣味活動の場として定着している。

【役に立ちそうなデータ】緑化、地域コミュニティ、イベント、飲食店、商業施設、公共施設、公園、生物多様性データなど。
横浜にも里山はありますし、春にはタケノコが取れたりするところも多くありますので、そうした自然を身近に感じられる場所は子ども達の豊かな成長のためにも積極的に活用されることが必要ですね。

平日は都心で暮らす人たちで空き家と田畑をシェアし、週末になると菜園などをして過ごしている。

【役に立ちそうなデータ】空き家、農地、市民農園、税制、公園、公共施設データなど。
二拠点居住という言葉が普通に聞かれるようになりました。
元々、海外では普通にあることが日本では職場に縛られる働き方や長時間労働などのせいで進んでこなかった面もあるので、今後はそういうライフスタイルを望む人達に向けた積極的な情報提供や環境整備をすることが求められるのではないでしょうか。

データは無機物か

データやデジタルを「人間性のない無機質なもの」として忌避する人にお会いすることがよくありますが、データは何もない空間から勝手に生まれてくるわけではなく「人間が生きた軌跡」として残されることがほとんどであると感じています。
過去50年の都市デザインの取組みの中で様々な人たちが残していったデータをよりよく活かすためにも、デジタル技術を正しく使い、今後も市民に愛される横浜を創り上げていきたいですね。