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行政組織をアップデートしよう

もう10年くらい前になるけれど、区役所の地域振興課在籍時に、地元の連合町内会の集まりに行ったときのこと。
座ってビールを飲んでいるオヤジ達…失礼、オジ様方がいる一方で、甲斐甲斐しくお弁当を配ったり、食器を片付けたりする女性陣がいるというよくある光景。
その時に自分が事務局を担当していた団体の女性に「女性が働いて、男性が飲んでるって相変わらずですねー。」と声を掛けた時に返ってきた言葉が印象に残っている。

「人間は150年くらいじゃ変わらないわよー」

テクノロジーの進化と多様化の進展で徐々にその光景は変わりつつあるけれど、変わらない光景は地方自治体には未だに見られる。

日本最大の基礎自治体に30年勤めていた身として感じていたのは、明治維新くらいからの制度が未だに息づいているということで、その根深さは普通の人に想像していただくのはなかなか難しい…といつも思っていた。(中にいる私ですら「まさかそんなw」と言いたくなるような光景が実際にあったりするんだから無理もない。)

DX?AX?

今はデジタルトランスフォーメーションが叫ばれる時代ではあるけれど、行政に関しては、その前に「組織のアナログトランスフォーメーション」が必要で、岩盤規制ならぬ岩盤文化を変えていかないと変革もへったくれもないだろうと日々思っているし、言っている。

私の目に映る地方自治体は、あちこちで止めてもいいようなブルシット・ジョブが次々に生み出され、EBPMガーと言いつつも、それらが検証もされずに放置されるどころか、「石の猫」さながらに祭壇に飾って拝まれており、拝んでいる人たちが「ネコ様の掃除仕事が大変で、家に帰って子どもと遊んでやる時間もない~」と嘆いているというものだ。

そういうのをまず変えないといけないんじゃないですかねぇと思っていた中で、私の気持ちを代弁したかのような本をデジタル庁の吉田さんが出してくれた。

前著「行政をハックしよう」発刊から3年経ちますが、2冊目の本を出します。「行政組織をアップデートしよう」というタイトルです。 出版社のぎょうせいのページでは9/25から、amazonは10/5からの販売になります。(予約可能、kindleも...

Posted by Hiroki Yoshida on Friday, September 20, 2024

岩盤行政のすごさ

この本は行政の組織論をテーマにしたものである。

吉田さんからゲラをいただいて読んだが、本の中で明らかにしてくれている行政組織のヤバさは、私の肌感覚ともほぼ一致する。

一言で言うならば「明治時代から続く縦割り行政の岩盤っぷり舐めんな」である。

日本人は勤勉かつ優秀だったことや、人口ボーナスが重なったことで高度経済成長のような時代には(幸か不幸か)それが後押しをした側面もあったと思う。しかし、グローバルと多様性の時代となった今、その仕組が全く機能しなくなっている。
「データ改ざん事件」などはそれがわかりやすく表面化したものだと思っている。

また、その状況になっても、行政に「組織経営」という視点がインストールされなかったのが、さらなる状況の悪化を招いた。

私がいた30年間、アリバイ的に行われる「マネジメント研修」はあっても、本当の意味で管理職への研修が行われているのは見たことがないし、最後の方に出くわしたマネジメント力のない上司達は、その成れの果てだったと思う。

その状態で、経営力のない首長がトップに座ったりするのだから、さらに最悪だ。
その結果として「構造的無能化」が引き起こされているのは、今の公務員の退職増加などが証明していると思う。

否定が変化を妨げる

吉田さんの本の中では、そうした状況を明らかにしつつ、それを変えていくための提案なども盛り込まれている。

詳しくは著書を読んでいただければと思うが、全体的に首がもげそうなほど頷きまくる内容の中で、ほんとそれ…!と思ったのは「離職を否定することが、組織の文化を妨げるとともに、内部の人材が働きやすい環境を実現することを停滞させる」という部分。

タコツボ化が進んだ組織に未来はないというのは一般的な話だが、民間であればそんなことをやっていたら経営が傾くか、最悪潰れる。
しかし、行政には残念ながらそうした概念は存在しないので、どんなに◯◯な組織であっても消えることはない。
結果として割を食うのは税金を払っている住民である。

タコツボを壊すために、内部の人間を強制的に入れ替えて「空気と文化の入れ替え」を行う、また行える組織になっていることが必要だと感じているし、それができない状態で「リボルビングドア」などと寝ぼけたことは言わないでほしいと思う。

デジタルの本質とは

最後の章である、東京都の宮坂副知事とデジタル庁デジタル監の浅沼さんの対談記事は読み応えがある。

宮坂さんの「デジタルの本質は中抜き現象」という言葉は、これから色々なところで紹介していこうとしっかりメモした。

個人的には、今やっている地方自治体の標準化の取組もその中抜き現象によってもっとうまくできるだろうと思っているけれど、アップデート前の組織・仕組みが足を引っ張っているために大変な状況になっているのは残念なことだと思う。

「経営資本」となったデジタルをうまく使っていくことは、すでに情報部門だけの問題ではなく、全ての行政職員に深く関わることである。
ぜひ、この本をお手に取ってめくってみていただきたいと思う。

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