アトランティック誌のリデザイン
アトランティック誌(The Atlantic)は、The New Yorkerと並ぶ、アメリカ、あるいは英語圏を代表する雑誌のひとつだ。162年もの歴史をもち、現在は主に政治・文化を扱う。同誌は今月発売の12月号から、アイデンティティと誌面デザインをおおきく変更している。このリデザインは同誌のクリエイティブディレクターで著名なブックデザイナー、ピーター・メンデルサンド(Peter Mendelsund)が率いるチームが行った。この作業は162年に渡る同誌の調査に基づき、読書体験を重視して行われた一方で、スマートフォンアプリやSNSでの動作も考慮され、特徴的な大文字のAを突出させたロゴデザインが選ばれた。また、初期に使われていたScotch Roman(英国風のモダンローマン書体。同国で広く使われている)を参照したあたらしい書体、Atlantic Condensedも開発された。
同12月号の誌面(+Web)では、編集長のジェルフリー・ゴールドバーグ(Jeffery Goldberg)がメンデルサンド氏にインタビューをおこなっている。同記事から興味深い点をいくつか抜粋する。
→ メンデルサンド氏は、1857年に発行された第一号に情報の明解さをみており、そこにはアトランティック誌に必要なものすべてがあるとしている。
→ SNSなどに必要な正方形のロゴを検討している過程で、大文字のAを再発見した。「歴史を通じて『(ウディ・アレンのカメレオンマンの)ゼリグ的な』Aをたくさん発見した」
→ 第一号につかわれていたコンデンスド(字幅の狭い)なScotch Romanと同時代の活字見本帳を調査し、新カスタム書体を開発した。レジブルで、クラシックでありながら、現代的な同誌の強さを伝えるものとなった。
→ 写真は雑誌によくみられるような裁ち落とし(ページの端まで図版にすること)とせず、ワクをつけた。これは読者にコンテンツに集中させ、その読書体験をより強いものするため。
→ 1910年から使用されていたポセイドンの銅版を使った社章は、1947年にはなんとW. A. ドウィギンス(Dwiggins)*によってあらたにデザインされている。10年程前のリデザインプロセスはこちらにも。しかし今回のリデザインではポセイドンの銅版の意味を「航海」「歴史」と捉えなおし、複数の海洋モチーフを銅版風に作り直すこととした。
12月号の特集タイトルは「内戦をとめる方法(How to Stop a Civil War)」。ドナルド・トランプは「俺を弾劾したら内戦になるぞ」とくりかえし発言している。メンデルサンド氏の好む雑誌表紙は、「最初の印象があって、そこから時間を経てあらたな発見があるもの」「読者による解釈を誘引するもの」だそうだ。
メンデルサンドさんの著作は4冊。うち「本を読むときに何が起きているのか(What we see when we read)」には邦訳がある。ぜひ読みたい。
YouTubeにはメンデルサンドさんと、シニアアートディレクターのオリバー・マンデイ(Oliver Munday)さんによる解説動画も。こちらもおすすめ。こちらはよりプロジェクトのプロセスに沿った解説になっている。
10年ほど前におこなわれた、Pentagramによるリデザインはこちら。
* ドウィギンスは20世紀前半のアメリカを代表する偉大な書体デザイナー、ブックデザイナー。「グラフィックデザイナー」という職名を初めて使用した人物。代表的な書体に、Metro、Electra、Caledonia。