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行動すべき時〜Alphabettesの記事から



本記事は、文字・書体に関わる女性の団体『Alphabettes』の記事から、6月14日のエントリ「行動すべき時。(It’s time to act)」を翻訳したものです。

記事にもあるとおり、同団体は先ほど5周年を迎えたばかり。記念エントリによれば、会費もスポンサーも理事会もない組織形態で、その活動は必ずしも会員の賛成するものばかりとは限らないそう。主な活動は、相互メンターシップ、書体デザインとレタリングの助言を与えるAlphacrit、リアルイベントの開催、そしてこの記事を含むおおくの小論・記事。

2020年6月。合衆国だけでなく世界中に人種間公正を求める激しい運動が広がる中、同サイトに投稿されたこの記事はおおくの反応を引き起こした。強い賛意とともに自身の行動の変更を宣言する人もあれば、是々非々に「それはできない」と(特に4番目の項目について)否定的な声をあげる方ももちろんたくさんいた。Typographicaは即日『Non-Latin』という用語の使用を停止した

同サイトのその後のいくつかのエントリやコメント欄でも、賛否を含む興味深い内容がつづくので興味があればぜひ読んでほしい。直後のエントリ「“行動すべき時”への考察(Reflections on “It’s Time to Act”)」は、本noteの前エントリにも登場するナディーン・シャヒーン博士によるもの。同エントリで氏はレバノン出身の自身の経験をまじえながら、ネイティブデザイナーとの協働の可能性について書いている。

ではここから以下が、翻訳です。(注:筆者としてはがんばっていますが、翻訳は元記事の意図を正確に反映していない可能性があります)

*  *  *

行動すべき時

Alphabettesのコミュニティは、本質的に政治的です。我々は、文字・書体・タイポグラフィへの情熱のもと集った女性のグローバルネットワークです。我々の目標は、成果を展示・共有するプラットフォームを提供し、その声を無視せずむしろ拡声するコミュニティへと迎えいれることで、書体に関わるあらゆる女性を支援することです。Alphabettesは2015年に、Indra KupferschmidとAmy Papaeliasの協働を通じて開始され、以来ネットワークは世界に245のメンバーを擁するまでに成長しました。このコミュニティはすべてのメンバーの意見を尊重・反映することを目指し、共に学び成長を続けます。

ミネアポリス警察の警察官4名の手によってジョージ・フロイド氏が殺害されるという悲劇からの二週間、アメリカ合衆国は、黒人に対する差別・暴力・権利侵害・システミックレイシズムへの激しい反対運動を経験し、この衝撃は世界中へと波及しました。世界の多くの人々が家にひきこもりソーシャルディスタンスが衛生上必須とされる中、レイシズムや差別への切迫した抵抗と公正さの要求は、静かに生き残るための生活を覆い隠しました。以来、抗議運動の群衆は表通りをうめつくし、差別主義者を称揚する銅像は倒され、ソーシャルメディアプラットフォームは、人種差別根絶要求への教え、支援、対話をあと押しする投稿であふれました。この運動を支援する個人や団体への寄付が行われました。どのような行動も小さすぎることはありません。

Alphabettesのようなネットワークが、この状況に対しどんな具体的行動をとることができるか、そして人種差別への明確かつ総合的な非難を示すことができるのか、熟考しました。我々自身、愛する人、メンバーや友人たち、協力者、あるいは一緒に働く仲間たち、その誰に向けてであれ、私たちはグローバルなネットワークとして毎日のように世界中でのひどい人権侵害を感じています。ですから私たちはこれが周囲にひろがるレイシズム、差別、抑圧への怒りの声であり、不公正との絶え間なき戦いだと理解しています。ひとりひとりの人間として、重大と感じる問題に対し常に能力の限り考えるよう努力してきました。コミュニティとして、私たちは常に包括的であるよう注意をはらっていますし、そしてある方向への包括性が世界の他の地域での苦難を無視するものであってはなりません。イエメン、シリア、香港、インド、チリ、エジプト、レバノン、合衆国、どのような地域であってもです。このリストはおそろしく長い。だからこそ、ただ単にレイシズムを許さないと宣言するのではなく、今この塾考の時に、我々の内面へと目と耳をかたむけ、一歩さがってこの業界を見つめなおすことに決めたのです。残念なことに書体・タイポグラフィ業界ではバイアスと不正を日常的な許容されたものとしてきましたが、このことに向き合うため何ができるのか問うのです。そして今できる行動をリストにしました。これは一人一人の行動で、くりかえしますがどのような行動も小さすぎるということはないのです。

1.
私たちはイベント・カンファレンス・コミュニティにもっと多くのBIPOCの人々を積極的にむかえいれなくてはなりません。カンファレンスにおけるダイバーシティの意義と重要性はひろく理解されていますが、本当の包括性とアクセスを獲得するためには明かにまだまだやるべきことがあります。これは私たち全員の課題です。特にカンファレンス・イベント運営者やスポンサーは、登壇者やワークショップ主催者と参加者の多様性を求めるべきです。運営者のみなさん:登壇者を決める際、業界のより幅広い人々に打診しましたか? 有色の登壇者を重視しましたか? イベント告知ページに行動規範をはっきり見つけやすく掲載し、参加者全員に安心できる包括的な環境を約束しましたか? その行動規範はあらゆるハラスメントに対してゼロトレランスを表明していますか? イベント運営には重大な責任がともないますが、熟慮のもとでおこなえば、誰もが幅広い専門家から学びを得られるすばらしいイベントになるのです。もちろん運営者だけの問題ではありません。スポンサーのみなさん:立場をつかって登壇者のラインナップを多様にするよう主張しましたか? そうしていないのなら、それはなぜですか? このような問題について問うのはあなたの権限内です。登壇者のみなさん:カンファレンスの登壇者として招かれた際、登壇者のラインナップが偏っているなと感じたことはありますか? 気になりませんでしたか? 運営者に連絡しその懸念をつたえましたか? そのあなたからの問題提起が考慮されていないと感じた時、意思表明のために登壇を断りましたか? そのイベントは誰もが参加しやすいよう配慮されていましたか? マイノリティや多様な出自の人々が間違いなく参加できるよう、しっかり対策がとられていましたか? むずかしい質問ですが、本当に多様性ある業界でありたいのなら大変でも必要なことです。

Alphabettesは、このような問題の当事者です。私たちはこれまでも常にメンバーとコミュニティの多様性を目指してきましたが、今後さらにBIPOCの女性たちへのリーチをひろげ、自分たちの現状を超えていきます。あなたのイベントの登壇者について提案が必要でしたら、どうぞ連絡してください。推薦もできますし、登壇者募集をひろめるお手伝いができます。私たちはソリューションの一翼であるための努力を絶やさずにいますし、これからもそうあります。

2.
「非ラテン(Non-Latin)」 という用語の使用をやめなければなりません。この用語は排他的で偏見に満ちています。特定の集団への先入観と優遇は、定義通りのレイシズムそのものです。特定の書記系を優遇するために世界のあらゆる書記系の価値を下げ、周縁に追いやる手抜き表現を正当化する議論に存在の余地はありません。歴史上オリエンタルだとか非ローマンなどのような用語は、19世紀の印刷人やタイプファウンドリーが、特に知見があるわけでもない書記系における印刷の専門家だと吹聴し競合から差別化するために、売りやすく便利なものとして使ったものです。今日、この用語は書体業界のあらゆる場所で普通のものとなっています。カンファレンス、オフィス、ファウンドリー、コンペティション、教育機関でも。この用語によって周縁に注意が向けられるのだからよいのだという議論があります。心からそう思いますか? この用語が、ヘブライ、デヴァンガリ、アラビア、タイに注意を向けさせることはありません。それらが「何でないか」に注目されるばかりです。つまりラテン文字です。代替用語が必要だとの議論があります。私たちはこう応えたいとおもいます。「なぜですか?」 そもそも何故このような区別が必要なのでしょうか? 書体の非ラテン拡張というのは多言語拡張ではないのでしょうか? 非ラテン文字の書体デザインの教師だったとして、ラテン文字の教師となぜ異なる扱いをうけるのでしょうか?

Alphabettesとして、このオフェンシブでヨーロッパ中心主義的な用語を私たちの今後の発言と過去の投稿から根絶することにしました。また文脈にかかわらず、たくさんの書記系をなんらかの用語でまとめて表現することに反対します。つまり今後この種のバイアスを含んだ言葉づかいに加担せず、世界のあらゆる書記系への姿勢を再考し、インクルーシブな言葉の使用に責任を持ちます。みなさんにも同じ行動を求めます。全員がそうすることでこの業界を誰にも入りやすいものとすることができます。

このトピックについてもっと知りたければ、Soulaf Khalifehさんの思慮深い記事『アラブ人が活版印刷を発明していたとしたら?』をおすすめします。

3.
教育者、生徒、カリキュラムに多様性が必要です。ユニバーシティ、カレッジ、デザイン学校で働いていてそれが可能な立場なら、BIPOCのための新ポジションを提案したり、あるいはゲスト講師として招待しましょう。教員の立場を離れる予定ですか? 後任の推薦を依頼されたら、自身の偏見を確認し、どのような後任を推薦すればコミュニティを多様にできるか考えましょう。教育者は次世代におおきな影響があります。教育者がより多様であれば、より多様な生徒たちが教員になれる可能性を感じますし、最終的にさらなる向上を目指すでしょう。デザイン教員として、生徒にどんな言語を教えていますか? 前項をふりかえってみましょう。非ラテンのような用語のカジュアルな使用は、必然的に生徒たちによるさらなる使用をまねき、誰かを傷つける可能性があります。しばしば彼らは我々教員に訴えることができないと感じています。だから彼らはただ差別に傷つきながらもじっとしています。我々を見上げる若者にこのような不快を押し付けるのは、信じがたい努力不足です。他文化からのデザイン学生に、我々はどんなことを教えているでしょうか。異なる出自の学生が、彼ら自身の書記系のためによりよい書体をデザインしたいと言ってきた時、我々のフィードバックは妨害になっていませんか? 生徒をしかるべき専門家に紹介できないか試みましたか? その専門家が、時間と専門性にしかるべき評価と支払いを受けられるようにしましたか? とても重要なこと:最後に教材を査定したのはいつですか? シスジェンダーの白人男性によってデザインされた復刻書体ばかりを使って書体デザインを教えるこれまでのやり方はまだ許されるでしょうか? このアプローチを再考し、前世紀や非書籍のコレクションをふくめる時ではありませんか?

4.
我々は育った環境で読み書きしたものと異なる書記系の、カスタム書体やクライアント案件のデザイン業務受注をやめなくてはなりません。その仕事を獲得できたのは、あなたの地理的経済的優越や、業界における地位などの要因のためかもしれません。そのような機会があれば、その書記系のネイティブ利用者でデザイナーという優位性を持つ人々にプロジェクトを渡し、我々の地位によって彼らがおしやられてしまわないようにすべきです。我々がその書記系の正しいデザインをできるかどうかは本稿の論点ではありません。書記系をリサーチすることが、その書記系とともに人生を生きてきたことと同じなのか再考をうながしたいのです。これは行動への呼びかけであって議論を求めるものではありません。だから我々はこの問題を、イスラム研究においてこの問題を対象とする研究者、Ayesha Chaudhryさんに譲ります。

西側学術界におけるイスラム研究は、初期植民地時代の研究者たちによる枠組みを踏襲しています。当時の白人研究者たちは、イスラムやムスリムについて本当に理解し伝えられると思い込んでいました。彼らは当事者たちよりもよく理解できると思い込んでいました。「手の届く距離」「客観的な」研究と称し、彼らの宗教や伝統について十分な知識を収集できると考えました。現場からの距離を弱みや短所ではなく強みだと考えていました。いったい他のどんな分野で、知識対象との密接さや、対象を知りすぎることが欠点とされるでしょうか。想像上の「他者」の周りに構築された分野、例えば民族研究などだけでしょう。実際のところ白人たちは人種差別を経験したことというその事実によってまさに不適当ですが、自分たちこそ人種差別の研究・調査・審査にふさわしいと思い込んでいる様にはいつもおどろかされます。

書記系をデザインするために深い文化的没入による知見を持つべきか否かという議論以前に、そのデザインを受注することで、我々は必然的に他の人の仕事と報酬を奪うことになるという認識が重要です。特に長らく経済的搾取をうけてきた宗教的文化的背景を持つBIPOCの人々が影響をうけます。これまで長い間、リードデザイナーがネイティブでないため書記系への深い知見を持たないという場合、ネイティブの助言はある種のバンドエイドでした。ネイティブの助言を得たから、我々のデザインが然るべき読者に届くだろう。まさにその時、足下で傷は深まっています。そのデザインのアウトプットに彼らの知識が必要不可欠で、案件を通じた補助を必要としているなら、そもそもなぜその協力者に依頼されていないのでしょうか。このコラボレーションで得をするのは誰ですか。そもそも最終的に協力者への謝辞は明記していますか。あるいはこの取引によって公然と利益を得ていながら、自身の能力と主張するのでしょうか。答えにくい質問ですが、我々はこの痛みを乗り越えて自身の特権を認めなくてはなりません。我々がこの不愉快な質問を無視できるのは我々に特権があるからこそなのです。

話題をもどします。オフィスで働いていて新人を雇う予定なら、よく仕事でつかう書記系のネイティブを雇うよう呼びかけましょう。その試みがあなたの力(雇用関係法、候補者など)を超えたために不首尾なのであれば、不案内な書記系に視覚的偏向を知らず押し付けてしまうような人に依頼せず、視覚言語の大半をその書記系内での人生から獲得した人物に外部依頼する貴重な機会だと捉えるべきです。プロジェクトにふさわしい人を見つけたけど、その人には支援やガイドが必要だと思われるのなら、協働しましょう。マイノリティとコラボレーションをしたら、しかるべき報酬を支払うだけでなく、功労を明記することがとても重要です。みんなに彼らの成果を伝えましょう。彼らは評価にふさわしいし、またそうすることで彼らが次の仕事を得る助けになります。これは書体デザインの実務だけではなく、活字関連の研究でも同様です。自身の研究をふりかえり、あなたが最良の人物か、その研究にとって自身がどれほど代え難いか考えてみましょう。もし答えが「いいえ」だったなら、方向転換しましょう。あなたの欠点に向き合うあらたな研究方向を探求しましょう。

もちろんこのどれも簡単ではないし、多くのファウンドリにとって業務のあり方の根本的変更を必要とします。しかしこれは、業界構造内部の偏向に対しできる有意義な行動です。ネイティブのデザイナー・リサーチャー・教育者に振り向けることのできた業務を、過去行ったかどうかは重要ではありません。それよりも今、変化をもたらすために業界の一員として我々の持つどんな能力を使えるのか、ふり返り、学び、理解することが重要です。

これは、業界をよく変えるために即座に効果があると思われる我々の行動リストです。ここで、現在の我々の規範がより特権的な人々を優遇する傾向があると認識し、真の平等に向けて歩を進めている業界内の人々を評価し感謝を述べます。下記はBIPOC書体デザイナーに特に用意されている機会のリストです。完全なリストとするために、漏れを見つけたらお知らせください。

- Type Design A–Z from Lynne Yun: This online series aims to build a solid foundation of knowledge for what you need to know before embarking on your first typeface design, and then carrying it to the finish line. For anyone who identifies as BIPOC, they can access the content with free registration by filling out this form.
- The Malee Scholarship from Sharp Type: The Malee Scholarship grants $6,000 USD annually to one young woman-of-colour over 16 years of age. It also includes a 4-week in-studio mentorship program, where Sharp Type will provide professional & creative guidance with the production of their typeface, as an elective. Applications for 2020 have now closed, but keep an eye on their application page for next year.
- TDC scholarships from the Type Directors Club: In support of design education, the TDC has awarded scholarships to promising students of typography since 1994. Three such scholarships are open for application annually, and of the three, the TDC Superscript Scholarship sponsored by Monotype (in particular) recognises students of colour studying in the type design discipline at a college or university in the United States. You can find the application form here.
- The BIPOC fund and Type Crit Crew organised by Juan Villanueva: The Type Crit Crew is a free resource for type design students to meet 1:1 with experienced type designers for virtual critiques. To learn more and apply or offer your expertise, follow this link. The application period for Juan’s BIPOC fund to attend his Principles of Typeface Design: Display Type at Cooper Union has now ended, but through his efforts and the generosity of the type community, he was able to raise funds for five people who identified as BIPOC for this course.
- The ATypI Diversity Fund: An initiative to enable students, educators, designers, and researchers from underrepresented communities free registration to ATypI events and funds to help offset travel.

みなさんありがとうございます。我々はこの困難な対話を継続し、我々と異なる考えや視線を持つ人々からの声を聞き、システミックレイシズムがどのように我々の職能を害するか学び、求められる書体業界とコミュニティの実現に向け前進をつづけます。包括的で多様で平等な業界。レターフォームは言葉をつくり、言葉は社会変革のために求めるべきもっとも強く重要なツールのひとつです。今、問うべきです。さらにできることは?

注:この記事は多くのメンバーの協働によるものですが、Alphabettesネットワークのメンバーそれぞれ個人の意見を反映しているわけではありません。

こんにちは。読んでいただいてありがとうございます。