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純喫茶リリー

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純喫茶リリーのお話
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2024年6月の記事一覧

狙いは早朝

「お祭りがあった次の朝は、よーけ お金が落ちとるでよー  りっちゃんも拾いに行ったらいいにぃ。」 萩原のジジは、毎朝5時くらいに起きて、開店前の近所の大型スーパーに散歩に行ってた。 開店前のスーパーにわざわざ?毎朝?とあるとき聞いたら、 お金が落ちてないか探しにいっているらしい。 「7時に行ってはもう遅い。先に誰かに拾われてしまう。6時には行っとかないかん!早起きはサンモンノトクって本当だに。」 「そんなに簡単にお金がもうかるなんてすごい!拾いに行きたい!」と、律子は瞳

赤い女

「私のママなのに、なぜみんな“ママ”って呼ぶんだろう」 と幼い頃の律子は不思議に感じていた。 純喫茶リリーのママは律子の母でもある。 ママは赤が好き。 リリーの壁も床も全部赤い。 もともと別の名前の喫茶店だったこの店を、そこで働いていたママが譲ってもらい、栓抜きさんに頼んで赤い店にしてもらったそうだ。 ちなみに車も真っ赤なブルーバードに乗っていた。 「ブルーバードなのに赤ってなんだよ」と、律子は6歳ながらに思っていた。 ママはいつも車のドアを勢いよくバンっと大きな音をさせ

大巻工務店の2代目社長

「ママ!いつものね」 モーニングサービスの時間が終わってから来るのは、リリーの斜向かいにある小さな会社、大巻工務店の2代目社長の大巻さん。 大巻工務店は、社長と社長のお父さんとお母さん、そして若い美人の事務員が1人いるだけの小さな工務店。 社長は派手なストライプのスーツを着ていて、髭を生やし、大きな焦げ茶色のサングラスをしていた。 律子は、口に出したことはなかったが、テレビのコントの社長みたいだなぁといつも思っていた。 大巻工務店では、社長のお父さんもお母さんも会社では薄

濡れ衣を着せる山田のババ

「りっちゃん、ええもんやろかぁ」 と、バッグの中からゆで卵をそのまま出して律子にくれる山田のババ。 「今ブーケに行ってきたから」 「ブーケ」とは、リリーから歩いて3分くらいのところにある喫茶店だ。 リリーのモーニングセットはトーストだけだが、ブーケのモーニングはトーストの他にゆで卵もつく。 オババは「ブーケ」でモーニングを頼んで、トーストだけ食べてゆで卵は食べずにカバンに入れて持って帰るのだ。 平日の朝から喫茶店のハシゴ。 別のお店でもらってきたゆで卵を、別の喫茶店の娘に