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「完璧は難しいから、『最高』を目指そうぜ」完成した原稿から紐解くイベレポの作り方【sentence LIVE #2】

「イベントレポートを書いても、空気感が伝えきれない…」
「とても面白いイベントだったのに魅力が伝わらない…」

ライターなら誰しもが、このように頭を抱えたことがあるのではないでしょうか。

取材内容をコントロールできないことから、“ライターの腕が最も試される原稿”ともされるイベントレポート。そんな難しいイベントレポートを作り上げるにはどのような工夫が必要なのか。

今回は、編集による赤入れがほとんどなかったこちらの原稿を元に、記事の執筆者である西山武志さんと、撮影者である長谷川賢人さんがディスカッションをするsentenceさんのイベントに参加しました。

お二人が実際に意識された点は何だったのか。イベント当日や執筆時の注意点はもちろん、「プロ」として記事と向き合う姿勢についてのお話など、全ライターにとって新たな気付きがきっとあるはずです。

イベントレポートは感想文でも報告書でもない

― 最初に議題に上がったのは「イベントレポートって何なのか」ということ。一見遠回りのように感じますが、前提を考えるのはどのように役立つのでしょうか。

長谷川さん2

長谷川賢人(はせがわけんと)さん
フリーランスのライター/編集者/カメラマン
紙の専門商社勤務を経て、ウェブメディア業界へ異業種転職。「ライフハッカー[日本版]」副編集長、 「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年9月よりフリーランスに転向。

長谷川さん:イベントレポートってそもそも何?って考えるのは大切だよね。「レポート」だから、ただの感想文じゃなくて、当日参加できなかった人達にイベントの価値を報告するものじゃないといけない。

西山さん:そうですよね。でも、無機質に事実を伝えるだけだと、読者の心は動かせない。所感を加えながら、感想文と報告書の間を模索するのが、イベントレポートだと思います。その前提を持つのと持たないのでは、大きく違ってきますよね。

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西山武志(にしやまたけし)さん
story/writer
大学在学中に週刊誌にてライティング業を開始し、卒業後にフリーランスとして独立。

書き慣れてない人は、感想文と報告書のどちらかに寄りすぎてしまう、とのこと。確かに、意識的にそこのバランスをとっている人は少なそう。さらに、そのバランスはイベント当日から意識されているようです。

西山さん:プロとして、事前にできるだけの準備はするようにしてるかな。登壇者の情報を調べたり、可能なら事前にスライドをもらったり。なるべく当日前に、イベントの全体像が見えるようにしておきたい。

長谷川さん:イベント中に、第三者目線を持てるようになるからね。撮影のときも、行ったことがない会場だったら、早めに行って下見したり、装備は多めに持っていくようにしてる。

西山さん:実際に話を聴きながら、原稿や会場の空気にアンテナを張れるようになりますからね。前もって仮の構成まで考えておけると、心と頭に余裕を持って、イベント当日に臨めると思います。

必要なのは、相手の望むアウトプットを理解する努力

― 「ライターだけじゃなくて、イベンター側の意識でもあるけどね」と、イベントレポートはチームで作り上げるもの、という観点を示す長谷川さん。

だからこそ、編集者やイベンター側と、事前に考えを共有しておくことが大事だと言います。

長谷川さん:俺がよくやるのは、イベント直後に編集者をつかまえて、構成を確認すること。肝がこの話で、オチはこの話で、文字数はこのくらいで、っていうコンセンサスをとっておく。

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西山さん:僕は、文体のイメージを聞いてますね。具体的な文体イメージがあるときと、他メディアを具体例に出してくれるときもあるんですけど。いきなり好き勝手書いて、チェックしてもらって初めて、イメージの違いに気付くのはお互いもったいないですからね。

長谷川さん:そこの握りをしておくだけで、事故原稿になる確率はぐっと減る。

西山さん:相手の望むアウトプットを理解する努力は必要だと思いますね。テクニックじゃなくて、意識だけで全然違う。

― この意識があったからこそ、今回の原稿では赤がほとんど入らなかったのかもしれません。

相手の望むアウトプットを理解する努力の一つとして、押さえておくべき最低限の点はいつも意識している、と長谷川さんが語ってくれました。

長谷川さん:さっき報告書と感想文の間、って話をしたけど、報告書にあたる事実の部分は絶対に押さえておかないといけない。写真だと、必ず必要になる構図がいくつかあるから、それはなるべく早く撮り切る。その上で、遊びの写真を撮るようにしてるね。

西山さん:良いものを出したとしても、そこに抜けがあると台無しになっちゃいますもんね。押さえるべきところは押さえておく。

長谷川さん:今回だと、遊びとして飯高さんがスマホを持っている写真を狙ってたんだけど、それは基本的な構図の写真を撮り切ったから。こういう色気をどう盛り込むかで、ただの報告書ではなくなるんじゃないかな。

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書き手の人格を出しすぎない。でも色は出す

― 題材のレポートを読むと、イベントの空気感をとてもリアルに感じられます。原稿を執筆されるとき、西山さんはどのようなことを考えて臨んだのでしょうか。

西山さん:最初に考えたのは、文体をどうしようかな、というところかな。大きく分けて、対談形式か、地の文を挟むかの2つだと思うんですけど、会話の内容をコントロールできないからイベントレポートは後者の方が分かりやすい。

― イベントでは、モデレーターとしてモリジュンヤさんも登壇されていました。しかし、完成記事ではモデレーターの言葉は全く出てきません。

西山さん:ジュンヤさんも会話に加わっていたから、入れようとも思ったんですけど、飯高さんと佐藤さんの軽妙なやり取りの方を強調したかったんですよね。会場で感じたことを伝えたいなって。

― お二人の仲の良さが本当に素敵でしたからね、と語る西山さん。ご自身が感じたイベントの空気感を伝えようとしたことが分かります。

一方で、レポートを書くときの「視点」は意識しないといけない、とも語ってくれました。視点は、語りの人格とも言い換えられるようです。

西山さん:イベントレポートで難しいのは、どの人格で書けばいいのか、ですよね。無機質すぎると心が動かないけど、書き手の人格が出すぎると「この感想は誰のものだ?」って読者との距離が出ちゃう。でも、書き手の人格と離れすぎても、良い文章は書けない。

長谷川さん:今回だと、リード文にその工夫が出てるよね。

(リード文より抜粋)
普段からnoteを読んでいる、あるいは、SNSが身近にある方にとっては、いくつもの気づきが埋め込まれた内容になっていると思います。ぜひ、掘り起こして、お持ち帰りください。

西山さん:イベントで話を聞いていて、全部が読んで欲しい内容だったから、通しで読んで欲しいな、というのが僕の想いでしたね。でも、その想いを直接書くと距離が出ちゃうから。「掘って自分で見つけてね」っていうニュアンスにしたんです。

長谷川さん:このバランスがすごい上手い。メディアの方向性や、記事の目的を踏まえて、書き手とコーポレートの人格のバランスをとっているな、って感じる。

― そこの意図まで読み取ってくれる人がいて良かった、と本当に嬉しそうな西山さん。

長谷川さんは、書き手の色をどこまで出すか、という問題に付いて離れないのは「読者の視点」だとも語ってくれました。

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長谷川さん:結局、イベントレポートは来てない人や記憶が薄れている人に伝えるものだから、読者の目線は忘れないようにしないと。そのためには、いかにひとりよがりにならずに書くか、だよね。

西山さん:イベント当日の空気感を感じながら、第三者目線を忘れない、というか。

長谷川さん:例えば、原稿を全て書き終わってから、読み返して小見出しをつけるようにするとかね。自分を読者視点に持っていく工夫は、すごく大切だと思う。

「最高」を目指していこうぜ

イベントも終わりに近づき、「改めて考えてみたら色んな話ができたね!」と楽しげなお二人。そのまま、お開きになりそうな雰囲気のなか、西山さんが最後に語ってくれたのは熱い想いでした。

西山さん2

西山さん:話していて思ったのは、完璧は難しいけど、「最高」は目指していこうぜ、ってことですよね。「これ良いから見てよ!」って心から言えるものを書き上げるのが、最高のアウトプット。それを目指すのが、ライターとして責任をとるってことなんじゃないかな。

原稿とどのように向き合うのか。意識すべき点はいくつもありますが、それら全ては仕事を依頼された「プロ」としての覚悟があってこそ。誰であっても完璧は難しい。だからこそ、自分が思う「最高」のものを書き上げようとする。

イベントレポートに限らず、想いを伝える仕事をするときに大切な、芯となる部分を教えてもらって、どことなく背筋が伸びる感覚がありました。

この真っ直ぐな心持ちを、みなさんも感じてくださっていたら、と思います。

(文:あくつさとし

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