人の想いを伝えたいという願い。想いの触媒になるakinaさんの「書く」の形
文章を書くとき、自分だけの強い“想い”が必要なのだと思っていました。自分のなかにある伝えたいもの、自分だけにしか書けないものが必要なのだと。
それがあると信じ、意気込んでパソコンの前に座って書き始める。けれど、キーボードを打つ手がふと止まる。考えた末に数行文章を打っては、これではない、と削除する。その繰り返し。
あれ、私はなにを伝えたかったんだろう。
悩み始めると、自分の想いなんてちっぽけなものだったのかもしれない、この記事を自分なんかが書いていて良いんだろうか、と伝えたい想いが萎んでゆく。
自分のなかに崇高な想いなんてない。じゃあ、なぜ文章を書くのだろうか。こう悩んだことのある人は少なくないと思います。
そのなかで、「私のなかには、伝えたいものがないんですよね」と語ってくれたライター・編集者の方がいました。彼女の名はakinaさん。
自分のなかに伝えたいものがない……? なのに伝える仕事をしているのはなぜ……?
そんな疑問をakinaさんにぶつけてみると、彼女が持つ強い願いが返ってきました。「なぜ書くのか」に悩んだことのある人は、ヒントとなるものを持ち帰っていただけると思います。
akinaさん
関西弁をしゃべる瀬戸内の人。コンテンツ編集者とライター。大学在学中、イタリアへ留学したことがきっかけで食に興味を持つ。海外19ヵ国を巡り、国内外その土地の食とカルチャーを体感することが好き。野球をこよなく愛す。
書くよりも読むことが好きなんです
昨年の12月から、コンテンツ編集のお仕事に就いたakinaさん。現在は、ライターさんから上がってきた原稿の確認や、誤字脱字のチェック、加えて、記事の構成案を作ったりと、幅広い業務に携わっているとのことです。
もともと輸入食品の卸会社で営業事務に就いていた彼女は、どのような想いで転職したのでしょうか。
akinaさん:編集に憧れがあったんですよね。誰かが書いたものを読むことが好きで。読んで、自分が面白い!と思ったものを、いろんな人に知って欲しいという想いがありました。自分で書くこともしていますけど、読む方の比重が大きいかもしれないです。
読むのが好きなのは小学校時代から。ずっと図書室にこもって、図書カードをいかにはやく埋めるかを友達と競う。そんな子供時代を過ごしていたそう。
面白いものに触れて、それを伝えたい。その想いは、外国語大学に通っていた大学時代にも見られます。
akinaさん:自分で何かを生み出す、というよりは、ベースになるものが欲しいんでしょうね。だから翻訳にも興味があって、外語大に進んだんです。高校時代も、英語のリーディングの時間が大好きでしたし。面白いものを読むのが好きなんだと思います。
「アウトプットよりもインプットなんですよね」と繰り返し語っていたakinaさん。その豊かなインプットから、akinaさんの世界観が形作られているのだと感じます。
「ゼロイチ」をしたいという価値観に気付いた
学生時代から面白いものを読むことが好きだったけれど、それを仕事にしようとは思っていなかったとのこと。コンテンツに触れるのはあくまでも趣味の範囲だと、貿易事務のお仕事に就職することになります。
akinaさん:大学時代にイタリアに留学したことがあって。イタリアって「食」の国じゃないですか。周りにあるものが全部美味しくて。しかも、ファストフードとかがほとんどないんですよ。自分たちの食文化を大切にしている感じですね。
そこから、「食」に対して興味を持つようになりました。どういうものを使って、どういう想いでシェフが作っているのか、とか。その興味が影響して、関西にあるイタリア食材とワイン専門の卸会社に勤めることになったんです。
扱う商品は大好きだったし、その仕事に不満があったわけではないとのこと。それでも、コンテンツ編集に関わりたいと、強く願うようになったきっかけはあったのでしょうか。
akinaさん:前職で“ゼロイチ”の体験をしたことが大きいですね。輸入事業の立ち上げをしたり、会社のWebサイトを立ち上げたり。そこから、コンテンツを作っていく過程に惹かれたんです。ゼロから物事を立ち上げた経験が本当に楽しくて。やったことのない領域に挑戦する感覚が、とても楽しかったんです。
“ゼロイチ”で物事を作り上げる。大変ではあるけれど、刺激的なこと。その刺激は、「自分にとって足りないものを埋めていく感覚がありますね」とakinaさんは語ってくれました。
ゼロイチで物事を作り上げる側に行きたい。この想いと、読むことへの想い。2つがかけ合わさって、コンテンツ編集への強い想いになった。
そう話すakinaさんから、静かながらも熱い気持ちが伝わってきます。
働かない時期があったから、自分の想いに気付いた
前職の経験から、コンテンツ編集への想いを持つようになったakinaさん。退職を決め、上京して転職活動を始めようとします。
しかし、その矢先での1度目の緊急事態宣言。上京することも叶わなくなったakinaさんは、実家に戻ることになり、数カ月間“働かない時期”を過ごします。
akinaさん:仕方のない理由だとしても、私だけ働いていない後ろめたさは感じていましたね。このまま就職できなかったらどうしよう、という焦りもありました。
でも、働かない時期があったからこそ、自分の内面に向き合えたんだと思います。なぜ働くのか、なにを自分は大切にしたいのかなどを、徹底的に振り返る良い機会になったんです。そこで自分の価値観を再確認することができました。
働かなかったからこそ見つけた自分の価値観。それは「本質的なことを大切にしたい」「自分の直感を大切にする」「学ぶことを止めない」というもの。
akinaさん:久しぶりに働くのはしんどいですけど、自分の価値観をしっかりと言語化できた。“働かない”という経験をしたからこそ、いま自分の進みたい道が見えているんだと思います。
この気持ちは文章にして残したい
アウトプットよりはインプット。お仕事でもコンテンツ編集をメインにされているakinaさんですが、コンスタントに個人でnoteを書かれています。読むほうが好きだと話すなかで、noteを書き続ける理由はどこにあるのでしょうか。
そのキーワードのひとつが「文章として残したい」というもの。
akinaさん:私って忘れっぽいんですよ(笑)。だからこそ、感情が大きく動いたときとかは、その感情の動きを残しておきたいな、って思うんです。文章に残しておけば、それを読み返すだけで、当時の想いを思い返せますし。
例えば、と挙がったのがこのnote。
大学野球を観戦しにいったとき、さまざまな要素が1つの線としてつながった感動があったそう。「この感動は文章として残したい」と強く思い、書き綴ったとのことです。
akinaさん:もともと一人の選手を応援するためにだけ、その試合を見に行ったんですよ。なのに、劇的な試合展開を見るなかで、チームに対して感情移入しちゃって。一人を応援するために行ったのに、いつのまにかチーム全体を応援していたんです。この熱い想いは、自分にとっても大切にしたい、と思って、衝動的にnoteに綴りました。
自分の感情をより味わうための「書く」。自分なりの「書く」を確立しているからこそ、noteでコンスタントに発信を続けられるのかもしれません。
自分の中に伝えたいことはない。だからこそ書けるものがある
「とはいえ、基本的に自分の中に伝えたいことはないんです」と話すakinaさん。そんな彼女が、伝えたいと強く思うときがあるとのこと。
それは、“他者の熱い想い”に触れたとき。例えば、と例に挙がったのが『NARIWAI』という子供のためのお仕事メディアです。
このメディアの運営に携わっているakinaさん。発端は、知人から「こういうメディアをやりたい」と相談を受けたこと。心から共感したakinaさんは、メディアの立ち上げから関わることになったそう。
akinaさん:自分ではなくて、誰かの想いを伝えたいんです。その人の力になりたいというか。「こういう想いがあるんだよね」って聞いて、それに心から共感したとき、それを形にするお手伝いをさせてください! って思うんです。
ライターとして関わっている『瀬戸内かわいい部』というメディアの記事も、「これは自分が伝えたい」と思い執筆したとのこと。
akinaさん:本当に素敵なお店で。国産の素材を使って、優しい味のお菓子を作っているお店なんです。取材に行って、店員さんとお話するなかで、お店の素敵さに触れたとき「これはいろんな人に知ってほしい……!」と思えたんですよね。
やっぱり、自分のなかに伝えたいものがあるというより、なにかベースとなるものがあって、その魅力を伝えたいんです。その人の力になりたい、と思ったときに、最も自分の力が発揮されるんだと思います。
想いの触媒になる
取材の終盤、akinaさんは「先頭で旗を振る役割ではなく、二番手や副リーダー的なポジションで、人の手助けをする役割が向いているんだと思います」と語ってくれました。
akinaさん:私はなにかを熱を持ってやれるタイプじゃないんです。その一方で、世の中には素敵な想いとか、やりたいことを持っている人がたくさんいらっしゃって。その人たちが本当にかっこいいなって思うんですよね。
でも、その人たちも想いだけでは上手く行かないじゃないですか。例えばメディアを作りたい、という想いや、もっとお店を知ってほしいという想いだけでは、どうしたらいいかわからない。
そんなときに、私が力になりたいと思うんです。熱量を持った人の想いを形にするお手伝いをしたい。一緒に想いを形にできる人間になりたいな、って思います。
「私には伝えたいことがないんですよね」と語っていたakinaさん。そんな彼女には、“人の想いを伝えたいという願い”があるのだと感じました。
「書く」となると、自分のなかに崇高なものがないといけないんじゃないか、自分のなかに強い想いがないといけないんじゃないか、と躊躇してしまう人は多いはず。
しかし、akinaさんのお話から、人の想いの触媒になりたい、という信念も一つの想いになり得るのだと学ぶことができました。
人の想いを伝えるための「書く」。この一つの形が、みなさんが書くなかでの勇気につながればと思います。
(執筆:安久都 智史 写真提供:akinaさん)
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