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広島協奏曲 VOL.3  もののふの妻 (13) 帰郷

 帰郷

 広島へ帰ってきた。

 地元の派遣会社へ登録した。
 イベントコンパニオンとして、働き始めた。
 近隣の自治体のPRイベントや、携帯電話、家電の販売促進、学習教材、教室への勧誘、新車発表会、、、、、、
 垢ぬけて見える外観。アイメイク重視の化粧。多少は出来る英会話。重宝して貰った。
 仕事場は毎週、変わる。ショッピングモールや繁華街の地下街。

 アパートを借りた。ワンルームで5万円。これなら夜職をしなくても、パパ活しなくても生活できる。
 明るくなった。肩に力を入れなくてよくなった。もちろん、仕事の時は背筋を伸ばしている。
 なにより、広島弁で喋る事が出来る事で、気持ちが楽になった。
 イベント終わりの打ち上げ、酒の席で、、
 「東京におって、何が面白うないゆうて、、、標準語、話すんがいっちゃん、しんどかったんよ。へぇ~でから、スキ見せりゃ直ぐマウント取ろうとしてじゃし、、、」
 東京帰りの人間が、東京人をディするのが一番、ウケた。笑ってくれた。楽しんでくれた。何かと話しかけてくれた。

 自分の居場所が、見つけられた。
 【東京へ行かんでも、良かったんじゃあ無いん?、、、いや、小ネタ仕入れて来ただけでも、良かったんよ。うん、、、、そう言う事にしとこうや。】と思えた。

 広島廿日市の大型ショッピングモール。自動走行式掃除機のイベント。
 「高城?、、、由里亜か?」イベント終了の片づけの時、長身のイケメンが声を掛けて来た。
 「えっ、え~っと、、、誰?」見覚えのある様な、無い様な、、、
 「田辺じゃが、、、健一じゃが、、、お前、ホンマに高城か?」
 「田辺君?、、、丸坊主しか記憶にないけぇ、、、、ホンマにィ~?」胸のぶら下がったIDカードが見えた。ここのショッピングモールを持っている地元流通チェーンのマークが見えた。
 海田実業高校の同級生だった。2年、3年と同じクラス。夏の高校野球の予選や、秋の県大会の予選には応援にも行った野球部の子だった。
 「お前、ひどう綺麗になったじゃないんか~、、、もしかしてイジくったんか?」誉めた後のいじくる関西式のトーク。
 「げっ、なんで分かるん?、、、ちょっとはかもうた。実は、、、」笑いながら、カミングアウト。
 「ええやん。ええ女になっとるわ。彼氏、おるんか?、、、」
 「なんよ~、いきなり、口説きんさんなや、、、ガツガツしとる思われたら、引かれるでえ~。」
 「お前がゆうな。ブイブイ言わせとった癖に、、、ハハハハ。」
 「あ~、昔の事はゆうちゃあいけんてぇ~、、、隠しとるんじゃけぇ、、、グフフフフ。」
 「お前、この後暇か?、、、飯、いこうやぁ~。」
 「ええよ。何時に終わるん?」
 「8時にゃ終わる。待っとってくれるか、、、、あそこのTally’sで。」
 「分かった。待ちょうるわ。」
 懐かしく嬉しかった。高校時代の同級生の男子は、みんな子供に見えてた。あの頃は年上にしか興味が無かった。でも今、あの頃の高校生は大人になってる。

 「田辺君、今、イズミに居るん?」
 西広島駅近くの焼鳥屋。チューハイで乾杯した後、聞いた。
 「おお、イズミ。経済大学行って、そこへ就職した。3年ほどスーパーへ行った後にユメタウン、今んとこ来たねえ。」
 「ええとこ、行ったんじゃねえ、、、良かったじゃん。田辺君、真面目じゃったし、頭もえかったし、ご両親はさぞ、お喜びでしょ~う。」
 「ニャハハハ、まあ、運がえかったねぇ、、、今んとこ面白えし、、、ところで、高城は、、、東京、行ったんじゃなかったか?」
 「うん、行っとった。航空会社行こう思うて、専門学校行った。なんとかLCCに入れたよ。まあ、いっぺんは夢は叶おたわ。」
 「LCCゆうて、CAきゃあ、、、」嬉しそうな顔の田辺。
 「うんにゃ、地上勤務。高所恐怖症じゃったし、、、制服には憧れとったけえ、危のう無い方のね。」
 「制服姿、、、見たかったのぉ~、、、写メ、撮っとらんのん?見せてえや。」
 「ん、見たいん?、、、可愛いよ。惚れんさんなよ。」
 「勿体ぶらんと、はよう見せ~や。」田辺の顔は笑ってる。
 由里亜、携帯を出し、保存していた写真を検索し始める。今から、7年前の夏服の写真があった。
 白いブラウスに、赤や金色のストライプや飾りがある濃紺のタイトスカート、黒いストッキング、お団子にした髪、目力一杯のメイク。
 「お~、、、美しいのぉ~、、、好みじゃわ、、、お、この時にゃ、イジっとったん?」
 「あ、その話か、、、まあ、眼やら鼻やら、、、」
 「なんで~?、、、そのままでもイケたんちゃうん?」
 「ムリムリっ。CAとか航空業界へ行こう思うとる女子は、レベル高いんよ。うちなんかカスリもせんくらい、、、、
  せめて、同じくらいのラインまで持ってっとかにゃ、面接もさせて貰えんくらいじゃったんよ、、、」
 「はあ~、、、そう言うもんなんか、、、こっちに居ったんじゃ、分からん話じゃの~」
 「うん、男ん子でもいじくる人、多かったよ。病院の待合とか入院しとる時なんか、2、3割は男子じゃったし、、、」
 「ほ~、、、今はそういう時代なんか~」
 田辺が、整形している事を嫌悪するタイプでなくて良かった、と思った。好感度、少しアップ。

 「田辺君は結婚しとるん?する予定とかあるん?」
 「いや、無い。別にせんでもええかの~と思ようる。」
 「親御さんらは、早うせぇゆうてん無いん?」
 「言うよ。そろそろ良いんじゃないんか、いいようる。」
 「早う、見つけんさいや。」
 「別にせんでもええかの~言うたろうがいや、、、アハハハ。」
 「なんか理由でもあるん?BLとか、、、」
 「BLじゃなぁよ、、、ハハハ、、、、、別に理由なんかなぁし、、強いていやあ、、、、色んなもん背負うんがイヤなくらいじゃ、、、結婚すりゃ、やれ子供じゃ、家の事じゃ、親の事じゃ、、、、
  嫁さんにまかせっきりゆう訳にいかんじゃろうし、、、わしが背負うゆうのも、ようせんかも知れんし、、、、自信が無いねぇ、、、早い話。」
 「そうよねぇ、、、せにゃイケん事、えっとあるよねぇ、、、、気楽な方がええよねぇ、、、」
 「高城は?おるん、彼氏は、、、」
 「おらん。あんまり欲しゅうないし、、、、面倒臭ぁし、、、気ィ使わにゃぁ機嫌悪うなられるんも、意味分からんし、、、」
 「ほ~、、、お前も苦労したんじゃの~、、、わしでえかったら、慰めちゃるで、、、都合がつきゃあじゃが、、、」
 「要らん。都合のええ関係は要ら~ん。フフ。」
 「ハハハ、まあ、暇な時は連絡せぇ、、、これ。」携帯のLineのQR画面を見せる田辺。
 「暇、ある時ね、、、」

 それから、月一くらいで由里亜と田辺は会う、飲む。その内、そのままホテルへと向かう時が増えて来た。
 由里亜には恋愛感情が湧いてこない。身体の欲求も二十歳前後の程でも無い。
 【何が、欲しいんじゃろう、、、うち、、、胸板だけ?、、、背中もええけどね、、、、、よう分からん。】
 田辺も生涯の伴侶という概念が分からずにいる。自分の胸でまどろむ由里亜の頭を撫でながら、、、
 「由里亜、ええ男出来たら、言ええよ。遠慮すなよ。一生の事じゃけぇ、、、女は特にの、、、子供の事も、、、家庭の事も、、、タイミングが大事じゃけぇ、、、」
 「健一は、『わしに連いてけぇ。食わせちゃるけぇ。』とか、よ~言わんのん?、、、優しすぎるよ。そう言うんは、、、まあ、うちには丁度ええかもしれんけどね、、、」
 「頼られるのも、悪ィ気はせんが、、、重たいよの~、、、ティンダー相手も、デリヘルさんも、その時だけの方が、ええ。わしゃ、責任持てる程、自信がなぁわぁ~、、、」

 結婚率の低下、離婚率の増加、少子化、結婚の高齢化、、、『こうしないと駄目』とか、『それが当たり前』とか、言われるのが辛い、、、こう言った事も一因かもしれない。

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