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広島協奏曲 VOL.3  もののふの妻 (17) 接近

 接近

 クリスマスがもうすぐと言う二人の休みが重なった日、最初のデートで行った鉄板焼き屋へ行った。
 いつもなら、食事後に少しお話して解散と言う流れ。でも今日は、今日くらいは、、、と由里亜は心に決めている。

 「あの~、、、山形さん、、、今日は、、、、うちに泊まって行かれませんか?」
 RRホテルから出て、隣のデパートとショッピングモール前の広場に出た時、由里亜から話しかけた。
 「……」山形は黙ったまま、目の前にあるイルミネーションを見ている。
 「うちじゃ、イケんですか?、、、好みじゃ無いけぇ?、それとも遊んでる風に見えるけぇ?、、、」由里亜、少し怒った様に付け加える。
 「違います。そうは思うとりません。」山形、視線を由里亜の顔の方へ見直し、キッパリと否定する。
 「じゃ、何で?、、、なんで、誘うてくれてんないん?」上目遣いにして、拗ねてみる。
 「結婚したい、、、一緒になりたい。と思うとります。随分と前から、、、でも、、、、」
 「でも、、、何なん?」
 「……あそこに座りませんか?」ベンチの一つが空いている。山形、そこへと歩む、由里亜、付き従う。

 「あの、、、由里亜さん。前にも言ったかと思うんですが、、、結婚とか人生とか、自分が考えている事、言います。聞いて貰えますか?」
 「はい。聞きます。」
 山形は両膝に手を付き、前の広場に敷かれているタイルを見つめている。由里亜はその横顔を見つめる。
 「自分は自衛官です。中学の頃からそうなろうと思っとりました。高校出て直ぐ、陸上自衛隊に入隊しました。 ある信念があったんです。」
 「信念?」
 「はい。この国を守る。国民を守る。その為にはこの命は惜しくない、、、中学、高校とその思いは変わりませんでした。
  きっかけは、ある国にさらわれた13歳の少女でした。
  助け出しに行けない、、、交渉すら出来ない、、、悔しくて、情けなくて、腹が立ちました。国とかじゃのうて、、、自分にです。
  強くないと舐められる。怒らせるとたいへんな目に会う、だから手を出さない。そう思わせないと、、、そうならないと駄目じゃと思いました。
  バカじゃ思います。たった一人じゃ、何んにも出来ん癖に、、、
  それでも、女の人を好きになったりします。イヤらしい事にも興味が湧きます。
  でも、こんな外見ですけぇ、告白してもふられます。断られます。」
 「そりゃ、その女の子に人を見る目がまだ、出来とらんかったんですよ。若いうちはどうしても、、、ジャニーズ系に持っていかれるし、、、」
 「入隊して給料貰い始めると、、、風俗に行くようになりました。先輩に連れて行って貰いながら、、、
  風俗の仕事をしてる人達は、、、たいていの人は、優しいです。外見の事、何にも言わんと優しゅうしてくれます。勘違いしそうになるけど、嬉しいです。
  自衛隊員ですって言うと、ありがとうって言って貰えます。内緒ですよって言って色々してくれます。本心じゃのおても、やっぱ嬉しいです。」
 「うちのこと手を出さんのは、風俗の方が良えけぇですか?」
 「それは違います。さっきも言った様に、、、由里亜さんの事、好きです。結婚したい、一緒になりたいと思うとります。
  一緒になって、暮らし始めて、家庭を守ろうとすると、、、、国の事、国民のみんなの事、、、守らにゃイケんのに、、、自分の命が惜しゅうなって、、、
  任務が疎かになりそうで、、、怖いんです。そんな自分が良いのか、悪いのかも分からんのんです。」
 「……」
 「じゃけぇ、結婚はせんと、欲求は風俗行って、、、いざとなればこの命、惜しゅうないくらいの覚悟で、、、って思ようるんです。
  じゃけえ、、、由里亜さんの事、手は出しちゃイケんと、、、、」
 自分の信念を貫こうとする山形。一人の男である前に、サムライであろうとしている。

 「それで良いんじゃないですか、、、あっ、結婚はせん、風俗へ行くゆう話じゃのうて、家庭とか暮らし、守らんでも、、、、、、国やら国民やらを守る方が先じゃけぇ、、、
  うち、、、制服の人が昔っから好きで、、、消防士とか警官とか自衛官とか、、、山形さんの話し聞いて、制服が好きなんじゃのうて、その服の中にある覚悟が好きなんじゃと、今、気付いたんです。
  もし、山形さんがうちを貰おてくれて、結婚せんでも一緒にいてくれちゃったら、、、うちの事は放っといてもええけぇ、みんなを助けに行って欲しいし、守っちゃって欲しいと思います。」
 「……えっ、、、でも、女の人ゆうのは、結婚すりゃ、、、安定とか将来の約束とか、、、要るんじゃないんですか?」
 「そう言う人もおってです。そうじゃない人もおります。あ、そうか、、、お見合いしょうか言う人らは、そう言う人の方が多いんかもしれんですよね。」
 「じゃ、、、由里亜さんは、、、自分と一緒になってくれても、行って来いって、、、死んで来いって、ゆうてくれてんですか?」
 「死んで来いとは言いませんよ~。何ゆうてんですか、もう、、、、、でも、出掛けたら生きて帰れん事もある役目じゃと、、、覚悟はするつもりです。」
 「……由里亜さん、、、」山形が由里亜を真っすぐ見ている。由里亜も真っすぐ見つめ返す。

 「という事で、山形さん、、、今夜はうちに来て下さい。結婚の事は今、考えんでもええです。これからも、一緒におって欲しんです。ず~っと、、、うち。」
 「……はい、、、これからもよろしゅうお願いします。」
 「こちらこそ、よろしゅうお願いします。」
 由里亜、自然な笑顔が出来ている。山形は恥ずかしめの笑顔で応えている。

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