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夢を歩く #2

数ヶ月後、制作途中の面談があった。会社の会議室で、デスクが、アニメーターひとりひとりに制作状況と一人当たりの作業量を説明する。
話し合いの中で、私は、演出に移りたいと同じ訴えをした。先に伝えておかないと、チャンスを逃してしまう。
ところが、彼は呆れたように言った。
「それさ、ただ、今の仕事やりたくない、って言ってるだけだよね」


ショックだった。
演出をやりたいという私の気持ちは、彼には、ただの逃げの言い訳だと思われていたのだ。
「世間知らずのお嬢ちゃんの駄々こね」と決めつけられた気がした。


それが引き金になったのか、私は帯状疱疹になった。嫌な痛みに耐えながら、これは精神面が体に出ているのだと思った。
そんな時、休憩所でコーヒーを淹れていたら、煙草を吸いに来た作画監督に声をかけられた。
彼はちょっと言いづらそうに口を開いた。
「最近、具合でも悪いの? もしくは、やる気ないの?」
どうしてそう思うのか訊いたら、絵に出ていると言われた。
それで、踏ん切りがついた。


辞めよう。
ここで作画をやるのは限界だ。


スタジオの所長である宮崎さんに話をしに行った。演出やりたいので辞めますと告げると、こう言われた。
「昔やりたかったことでも、今それを追わなくてもいいじゃないか」


確かに一理ある。追いかけさえすれば掴めるというわけでもない。
でも、もし無理だったとしても、やってみて、駄目だったな、と納得したい。挑戦もしないのは、嫌だった。


あてもなく会社を辞めた。



3へ続く。

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