空飛ぶストレート
物心ついたら、病院にいた。
寂しくはない。
パパもママも兄ちゃんも、会いに来てくれるから。
だけど最近、気になる子がいる。
向かいの病棟の窓辺で、いつも外を見ている女の子。
ベテラン看護婦の三村さんに聞くと、
名前は圭ちゃんというらしい。同い年。
「圭ちゃんに、私も6歳だよって伝えて」
三村さんにお願いした。
次に来た時、三村さんは、
「圭ちゃん、『そうなんだ』って言ってたわよ」
もう!そうじゃないのに!
得た情報から、三村さんに何度も頼んだ。
「昨日、私も前歯が抜けたよって伝えて」
「明日、お散歩に行くよって伝えて」
圭ちゃんの返事はいつも、
『そうなんだ』。
「回りくどいんだよ。
気持ちは、もっとストレートに伝えないと!」
相談すると、野球好きの兄ちゃんは、
ボールを投げる真似をした。
そっか。よし。
「圭ちゃーん!」
叫ぶと、圭ちゃんが驚いて窓を見る。
病棟の間の空に、ヒュッと紙のボールが舞う。
紙にはこう書いた。
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