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今ある風景とこれからの風景をつなげる―一般社団法人 lanescape 代表理事 小松浩二

 (一社)lanescape(レーンスケイプ)は、沼津市で遊休不動産の転貸業をはじめ、一棟貸しの宿の運営、情報発信メディア「沼津ジャーナル」の運営などを行っています。 代表理事の小松さんの本業は、有機農産物を販売する青果店「REFS(レフズ)」の店主。
 今回は、小松さんが沼津のまちづくりに関わり始めたきっかけや、様々な取組について現地を見せていただきながら伺いました。

Uターンして故郷沼津で開業

 「東京で食品バイヤーをやっていましたが、地域の食を支える事業を作るをコンセプトに2009年に出身地である沼津で青果店『REFS(Real food story:レフズ)』を開店しました。7年前にはレストランを併設した熱海店を開店し、沼津と熱海に拠点を置くことで伊豆や富士山麓の野菜を面白く仕入れることができるようになりました。
 2009 年からコロナ前までは、最高のスープを飲むためにスープの中に入れる野菜の生産者のお手伝いをする、『一杯のスープを作る時間』という長期体験プログラムを実施していました。主に、首都圏の方が8ヶ月かけて、伊豆の山や川を回りました。
 コロナでこのプログラムは実施できなくなりましたが、密を避けて畑の中でゆっくりするファームステイをやりたいというご希望をいただき実施しています。コロナによる社会の変化に合わせながら取組を進めています。」

商店街を盛り上げるための「沼津ナイトマーケット」開催

 小松さんは REFS 沼津店を開店して7年後、沼津あげつち商店街の理事長に就任し、商店街が抱える様々な課題解決に取組んでいます。

「私は、REFS のある沼津あげつち商店街の理事長を36 歳で引き受けました。 店子で引き受けているのは私だけです。そんな中、あげつち商店街のおかみさん会は、やりたいことをやりなさいと応援してくれました。」

「2011年に東日本大震災後の計画停電で街中が暗くなり、若者の姿がなくなって、どうにか街を明るく見せる方法がないかと考え、商店街のジュエリーショップやわさび屋さんと協力して『わさび漬けを美味しくする会』を開催しました。
 これを発展させる形で、2011 年から『沼津ナイトマーケット』を始めました。
 商店街のお店を知ってもらうため、お店でテイクアウトして食べれるようにしました。警察には県道を全車線通行止めでやった方がいいとアドバイスもいただきましたが、まちの賑わいを車からも見てもらいたくて1車線のみ使用する形で実施しました。
 年々、歩道での出店希望者が増えたため、途中から歩道での出店はNGとしました。私たちとしては、多くの人に来てもらうことが目的ではなく、本当に街が好きな人に来てもらいたかったのです。」

「一時期は、イベントをよくやっている人だねと言われることもありました。しかし、多くの方はイベントの日は盛り上がっても、その後は熱が冷めてしまいます。そのため、まちづくりはエリアマネージメントが必要だと感じ、イベントで非日常を作るのではなく、364日の日常ための特別な1日としてイベントを位置づけました。」

一般社団法人 lanescape(レーンスケイプ)の立ち上げ

 遊休不動産や公共施設・公共空間の活用事業を通じて、エリアの価値向上等を目指す沼津市の「リノベーションまちづくり」の取組が2015 年から始まりました。この取組にも携わる中で、小松さんはまちづくりの課題を解決するため、一般社団法人 lanesgape(レーンスケイプ)を立ち上げます。

「そうしているうちに、本業よりもボランティアの方が多くなってしまい、これでは良くないと思い、 2017 年 11 月にまちづくり会社の一般社団法人 lanescapeを設立しました。法人名の lanescape とはまちの核となるユニークな事業が道でつながってエリアとなり、エリア同士がつながってまちとなり、今ある風景とこれからの風景をつなげていきたいという思いが込められています。 公共と民間の狭間で手がつけられていない事を面白く繋げていこうと思いまし た。
 まちづくりで感じた課題は、流通にのらない不動産物件が多いこと、(1階が店舗で2階が住居という場合で店舗の中に階段がある等)利用が難しい物件があること、家主が片付けることに躊躇があること、まちに欲しい店舗のリーシング※ができていないということでした。それらを解決していきたいという思いで始めました。」

商業用不動産の賃貸を支援する業務。賃貸借の仲介だけでなく、店舗・事務 所の立地動向調査、テナントの構成や賃貸条件の設計・調整など、賃貸収益性を確保するためのサービス業務を含む仕事。

※リーシングとは

家守会社として、よりマインドを持っている人を応援したい

 lanescape は、遊休不動産のオーナーと利用を希望する人を繋ぎ、lanescapeが借入れた資金で利用希望者の意向を聞きながら物件を改修し、物件の転貸を行っています。どういうまちにしたいかということを考えることが大事という lanescape のポリシーが、エリアの価値を高める魅力的なコンテンツを提供しています。

「遊休不動産の利活用では、沼津の新仲店商店街にある遊休不動産を活用し、 ダンススタジオの『El Pasito(エルパシート)』、クリエイティブに特化したシ ェアオフィス『NUMAZU DESIGN CENTER(沼津デザインセンター)』を開所しました。
 また、狩野川沿いの遊休不動産を活用し、沼津のために魅力あるコンテンツを提供できる方を選定させてもらい、クラフトジンの蒸留所『沼津蒸留所』に入ってもらいました。
 さらに自主事業として、昔の沼津の港町であった魚町には、暮らすように沼津時間を過ごしていただけるような一棟貸しの宿として『魚町 蔵ノ上(うおちょうくらのうえ)』をオープンしました。」

「新しい日常」を模索する公共空間の活用

 「また、遊休不動産だけでなく、公共空間の利活用も進めていましたが、公共 空間の利活用はコロナで一気に進んだと感じています。
 沼津の中央公園では 2010 年から『THIS IS NUMAZU 沼津自慢フェスタ』という美酒美食の祭典を開催しています。法律的には公園を占用し、お酒を提供するなどの営業行為が難しかったのですが、違う切り口を見つけて始めることができて、中央公園と狩野川を一体的に活用した大規模なイベントになりました。
 しかし、コロナの流行により実施できなくなってしまったため、沼津市からエリアの価値を高めるため、同じ中央公園で「週末の沼津」という定期マーケットができないかという話をいただきました。公園の多様な使い方を模索し、新しい 日常を作ることを目的に、ネーミングもイベント的でなく、ステートメントをきちんと示して実施しています。
 コロナ禍で実施していたので、警戒レベルが高い時は中止にしましたが、5週にわたって金土日に実施し、各回ごとにファシリテーターを置いて、毎週違うコンセプトで実施しました。」

「また、2014 年から狩野川右岸の上土町周辺が都市・地域再生等利用区域として指定され、そこに整備された階段堤の「かのがわ風のテラス」の様々な活用が可能となり、狩野川ローカルマーケット、オープンカフェ、バーベキューなどを行いました。
 さらに、2021 年10 月から『Retreat in the city(リトリートインザシティ)』 という、イベントではなく日常のライフスタイルとして、狩野川の河川敷をゆるやかに使おうという取組を始めています。
 2022年の 10 月にはあえて『音と川と』をテーマに、バイオリンや太鼓の演奏、フリーピアノを置いてみてどんな反応があるか試しました。また、狩野川左岸は 2021 年に追加で指定区域となりましたが、住んでいる人も多いため自治会とも相談して、音を出さずにカヤック、デイキャンプ、たき火などアウトドアを中心に実施しました。」

今後の展望

 沼津のまちなかに新たな日常の「風景」を創り出してきた小松さん。今後の展望を伺いました。
 「lanescape としては、今後も地域の資源を活かしながら、みんなが心地よく過ごせて、心のよりどころとなるコンテンツを日常の風景として創り出し、それらを繋げて魅力的な街を作っていきたいと考えています。」

※掲載している情報は取材時のものです。

(担当:須田)