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009 マイナスの借金に関する合意形成

前回は、マイナスの借金の相続について述べました。そして、相続のルールは、プラスの財産に関するルールと、マイナスの借金に関するルールとでは異なることを述べました。今回は、マイナスの借金に関する合意形成について、さらに述べたいと思います。マイナスの借金は、法定相続分に従って相続しなければなりません。例えば、夫が借金を残して亡くなり、その相続人が、妻、長男、次男の3人である場合、妻が借金の2分の1を、長男と次男がそれぞれ借金の4分の1ずつを相続し、その返済の義務を承継します。しかし、その後ずっと、3人の相続人がそれぞれ2分の1ないしは4分の1ずつ返済を続けるのでは、3人の相続人にとっても、資金を貸し出している債権者(金融機関)にとっても煩雑です。そこで、通常は、債権者(金融機関)のもとで協議が行われ、その借金(借金の起因となっている事業)の後継者が決められ、債務引受契約(重畳的債務引受契約であったり、免責的債務引受契約であったりします)を交わすことにより、借金返済が後継者に一本化されることになります。要するに、借金の相続における最終解決は、資金を貸し出している債権者(金融機関)を交えた合意形成により決まることになります。相続のルールは、プラスの財産に関するルールと、マイナスの借金に関するルールとでは異なるわけですが、誤解を恐れずにざっくばらんに言いますと、プラスの財産に関する相続は相続人間における合意形成により決まり、マイナスの借金に関する相続は債権者(金融機関)を交えた合意形成により決まると言えます。いずれも、法律がこれらの結論を定めているのではなく、合意形成によりこれらの結論が決まるということです。そして、この合意形成のためには、調査や相続人間における意見の調整を行うだけでも結構な時間を要し、相続の高齢化問題も相まって、多くの相続において、遺産分割協議を早々に完了させることは簡単なことではないということは、これまで述べてきたとおりです(本稿005本稿006)。

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