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【十二国記 感想】⑩ 短編「幽冥の岸」を読んで

李斎の心象風景は、いつも戴の厳冬の風景だ。

人々の暮らしを閉ざす白い吹雪。
荒れ果てた茶色の土地。
焼かれた家々や枯れた里木の黒。

その李斎が王と麒麟を国に取り戻し、泰麒を蓬山に託し、帰路の途中に報告に寄った慶で陽子主従に温かく迎えられ、そして桂桂に飛燕を亡くしたことを労わられ、彼女は初めて、意図せず、自分に悲しむことを許した。

初めて見も知らぬ景王を訪ねたときに李斎が目にした色、また今回の再訪で再び目に入ってきた慶国の国土の色・・・雲海を透かして見える翡翠のような翠、美しく明るい国土の色。
その色が李斎の冬に閉ざされた心象を融かし李斎の心を染めた・・・と思った。

その時私は泣いた。


あれ?十二国記を読んで、泣いたことがあったっけ?
・・・ないはずはないと思うのだけれど、全く思い出せない。
十二国記は大好きなシリーズだけれど、理性で読んできた物語だと今回自覚した。

景王陽子を始めとする登場人物それぞれの生き様、国の在り方、天という仕組みなど考えることがたくさんあり、そして何より息をつかせぬストーリーに「次は?次は?」と心が逸る。

抒情的に揺さぶられるというより、理性に訴える物語群だ。(そして私は、そういうお話がどちらかというと好きなのだと、noteにいくつかの文章を書いて自覚した。)

けれどこの短編は、しみじみ李斎のために泣けた。

出だしは李斎の心象よりなお暗い泰麒の心象風景で始まり、その泰麒がそこからどう抜け出していくのかももちろん書いてある。
陽子の解説(w)にすごく納得したし、相変わらず景麒は存在感があっていい仕事をしている。

そして「白銀の壚 玄の月」で描かれなかった、我々が最も知りたいあたりがばっちり書いてあって、さすがです小野先生!と別の意味で涙したのだけれど・・・。

それより何より、私は李斎のために泣いた。泣けた。

よかったなぁ、李斎。


これは本編の決着がついているから、ストーリーを追う必要が無い、切迫感にかられないというのもあるだろう。
それにしても「十二国記で泣く」というのがとても新鮮だった。そして泣けて良かった!李斎の心に色が戻った!うぅ・・・涙(前作の2001年から19年分歳をとったからでは・・・?というツッコミはスルーする)

とりあえずこれが今の私の第一の感想。

もうこれに尽きる

でもまだ読んで数日しかたっていないのでまとまらないけれども、他にも思ったことをいくつか。

泰麒に一生ついて回る宿痾・・これがいったいどんな形で現れるのかは分からないが、それが泰麒にとって救いであるということ。うんうん!
稚く守らねばならない存在、崇め奉る存在として扱われるばかりでは、きっと泰麒は救われない。
必要なことをしただけと分かっていても、泰麒はそれを自分の罪として背負っていくだろう。ならば彼一人で抱え続けるよりも、外からもどんな形でも「罰」と言えるものが与えられた方が楽なのではないか。西王母、Good job!
景麒もGood job!
陽子も蓬莱の生まれでありながら自分の手を汚して王座に就いただけあって、泰麒の気持ちがよく分かっている、というか陽子にしか分からないのかもしれない。
そのあたり、黒い気持ちもありながら最初に景王を頼ろうとした李斎は慧眼だったw。

そして、高い地位に就くって、孤独・・・。

あとやっぱり天。
相変わらず話の中でも訳の分からない不気味なものとして書かれている。小野先生、その辺説明する気になられないだろうか・・・
李斎の不信感はもっともだ。

その件についてはさんざんnoteに書いたから、あまり書かないけれど、「天は人を助ける意思を持たない。それならそれぞれができる限りのことをするしかない」という李斎。そう、天は枠組みは決めるがそれを運用しない、運用は人に任せられ、しかし枠組みをはみ出すことは絶対に許さない。天よそこを何とかせい!

天という仕組みと天帝。
西王母さえ、実在し人を越える力を持ちながらその枠組みからはみ出す権限はない。
特に相変わらず不気味なのが「『麒麟』という器」という表現。
泰麒の心情は人間と変わらないのに、麒麟という器の中に歪な段差が存在し、摂理のように埋め込まれた何かがある・・・ひいぃぃ。
自分の気持ちと関係なく発動してしまう何かが体の中に埋め込まれているなんて・・・

どんな仕組み?天よ!
泰麒はほとんど麒麟として生活したことが無いというのに。コワイ。

もう散々書いた・・・w

その中でちょっとスッとしたのが、碧霞玄君の言葉。
西王母に対して「麒麟に殺生が可能ならば、天がそのように造ったのだ」と言った言葉。さらには西王母に憤る李斎に対して「宿痾は王母の情けであろう」と推察してみせたところ・・・。

碧霞玄君自体人の世の仕組みから外れ、李斎からすれば不思議な力を持っているのだけれど、これほど人の心情に寄り添うことができるとは・・・玉葉様もさすがでございます。

それにしても、いつか「天」とはいったい何で、十二国記の世界は誰によってどのようにして造られたのか、という物語を読んでみたいものだ。
小野先生・・・書かないだろうな・・しくしく
天についての妄想が止まらない。(←これはある意味幸せなことですね)

先行プレゼントの本作だけでなく、短編集そのものが早く読みたい!

今は以上!
でもつづく


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