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おたねさんちの童話集「マースとリース」

マースとリース
 
「やっぱ、これだね~」
シマリスのマースは、親友のリースにヒマワリの種を見せました。
「そうだね。やっぱりこれこれ!」
リースのカバンにも大量のヒマワリの種が入っています。
西へと向かう寝台列車の中です。
「ねえねえ、どっちが上で、どっちが下?」
二段ベッドも初めての体験です。
マースが尋ねると、リースは首を振りました・
「どっちへもいいよ!」
だったら、先に眠たくなった方が上のベッドで眠ることにしようか」
「じゃあ、そうしよう」
夏休みです。
それは、中学生になったマースとリースが子供だけでいく初めての大旅行でした。
クルミ農園をやっている、親戚のおじさんに、遊びにこないかとマースのお父さんに声をかけられたのでした。
クルミは食べ放題だし、川遊びも山登りもできるからと言われてマースは大張り切りでした。でも、マース一匹で行かせるのは、ちょっと心配と思ったマースのお母さんは、リースのお母さんに声をかけたのです。
二匹だったら、なんとか力を合わせて頑張れるでしょうって!!
マースもリースも子供だけで汽車の切符を買うのも初めてです。まして汽車の中で眠るなんて考えただけでワクワクします。
マースもリースも生まれて初めてみる黄色一色のひまわり畑、それか青紫一色のラベンダー畑がつぎつぎと流れていくのを、まるで映画をみるように眺めました。
そうして、いつのまにか地平線に黄金に輝いて、大きな夕日が沈んでいきました。
「あっ一番星!」
「えっ!どこ!?」
「ほら、あそこ!」
やがて真っ暗な空に、三日月が現れて、それから黒い雲にかくれるくらいまで、マースとリースはたくさんたくさん、おしゃべりを続けました。
目的の駅に着いたのは、次に日のお昼ごろでした。クルミ農園のおじさんが駅まで迎えに来てくれていました。
「じゃあ、さっそくで悪いんだけれど、これからクルミの収穫を手伝ってもらうよ!」
「え~!!今から!!」
「当り前じゃないか!自分たちで食べるクルミくらいは自分たちで収穫しないでどうするんだい!」
「そんなに心配しなくても、今日、半日手伝ったら、明日は休みにしてあげるから!」
マースもリースも一生懸命に頑張りました。だって木登りは大の得意なのですから。あっという間に、両手で抱えきれないほどのクルミを収穫しました。
 おじさんはマースとリースに離れを用意してくれていました。
「ここなら、私たち家族に気兼ねしないで、ゆっくり休めるだろ!」
 マースもリースも、もうヘトヘトにつかれていたので、あっというまに眠りにつきました。
次の日は、おじさんが川遊びに連れていってくれるはずでした。でも、急に予定が入ってみたいです。
「すまないが、今日の川遊びは中止だ。その代わり、近くに有名な公園があるから、そこで遊んだらいいよ。娘に案内させるから!」
「こんにちは!はじめまして!娘のミルクです。今日はよろしくね!」
マースもリースも、一瞬で顔が真っ赤になってしまいました。今までこんなに可愛らしいリスをみたことがなかったからです。
 マースも、リースも、それからどうやって遊んだかないて全然覚えていません。
ただミルクがマースとしゃべっていると、リースは嫌な気分でした。反対にミルクがリースとしゃべっているとマースは嫌な気分になりました。
 それから、何日が経ったことでしょう。もうすぐお家に帰る日が近づいてきたというのに、いつの間にかマースとリースが二匹で一緒に会話することがなくなっていました。
 別にどこが嫌という訳ではなかったのですが、行きの汽車の中のように、楽しい会話はまったくなくなっていました。
「よし、今日は最後に川遊びに連れていってやるぞ!」
おじさんが、ワゴン車にバーベキューセットを乗せながら言いました。もちろんミルクも手伝っています。
それから、もう一匹!
「紹介するね!私の彼氏のハムス!二人ともよろしくね!」
 ミルクがあんまりにも元気よく言うものですから、マースもリースも、一緒に笑ってしまいました。
「そうだよな」
「そりゃそうだ」
帰りの汽車の中で、二匹はまた、今までと同じ親友に戻っていました。
「ボクたちも、もっと可愛いリスに出会えるかな?」
「ああ、きっと出会えるさ!だけど、今度は恨みっこなしだぜ」
「ああ、もちろん、恨んで泣いているのは、そっちだけどな!」
 車窓の向こうでは、真っ赤な夕焼けが地平線にもうすぐくっつきそうでした。おしまい

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