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日常と非日常の間の椅子

チケットを持つ。
逆の手にはコーラとポップコーン。定番中の定番。

探す、そして座る。
この椅子が私を日常とは違う、夢のある世界へ連れて行ってくれる。

私は映画、そして映画館が好きだ。

あの暗い劇場で、大きな画面で、音で観る。
そこに何とも言えない魅力がある。

映画館に行けない日が続いている。

「不要不急」、たったその一言で片付けられて。

もちろん自分自身も分かっている。
今行くのは危険だってことは。

この期間に、「ニューシネマパラダイス」という名作を観た。

映画愛に溢れた作品だった。
観客で溢れかえった席、響く笑い声、鼻をすする音、時には罵声も。

全員映画が好きで、決して「不要不急」ではない、映画を楽しみに集まってくる。作中では、いわば生活の一部になっていた。

約2時間、日常から連れ出してくれる魔法の椅子。

私たちが一生、いや五生ぐらい生きても、見ることができない景色、感じることができない思い、なることができない役職。

たった2時間だけ、経験することが出来る。
まるで22時のシンデレラのように、終わりがあることは知っているが。

こんなに魅力的な椅子は他にあるだろうか。

映画館という、退屈な日常から引っ張り上げてくれる場所。そんな場所が、失われかけている。

いつになるかわからない、けれど必ず、必ずあの魅力的な椅子に座れる日が来ることを信じて。