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それは偶然なんかじゃなくて Vol.1 ~プロローグ~

それは偶然が幾つも重なったから。

お互いに彼氏、彼女のいる身で定期的に飲みに行ってお互いの恋愛の進行状況を報告しあって。くだらない各々の恋の悩みを打ち明け合って慰め合って。


「大丈夫だよ。焼きもちやいてるだけだよ。彼女はあなたのことが大好きだから、ちょっとイジワルしてるだけよ。」

そう言って慰めたけど、ホントは拗れて別れちゃえばいいのにって思ったの。


私も負けじと彼とのノロケ話をあなたにしたけど、ふうん そうなんだ…。って言ったきり黙っちゃったからそれからは何も言えなくなった。


お互いに今夜はいつもよりちょっと飲み過ぎたかな?そろそろ帰ろうかとお店を出ると、予想していなかった雨が降っていた。


「やだぁ、降ってるね。傘もってないよ。」

そう言って途方に暮れているとお店の中からマスターが傘を持って出てきた。


「これ、使ってよ。ひとつしかないけど、返さなくていいからさ。」

そう言って1本のビニール傘を渡してくれた。

「ありがとう!次回持ってくるから、お借りしまーす。」

そう言って二人で駅までの道をひとつの傘に入って歩いた。


あなたが右手で傘をさして、左側にいる私の方にさしかけてくれる。自分はほとんど入ってないじゃない。そういうところ、優しいのね。普段はこんなふうに彼女にも優しくしてるんだろうな…。と思ったらなんだか泣きそうになった。


微妙な距離感が逆にわざとらしいから、あなたの左腕にぶら下がるようにふざけて絡み付いてみた。

顔を見合わせてウフフと笑う。なんだか恋人同士みたいだね。


その瞬間、わずかにあなたの瞳が真剣な表情になって思わず「なに?」って声を出さずに首をかしげた途端、絡み付いていた腕をぐいと離して私の左肩を抱き寄せた。


~あなたの顔が近づいて私に優しくキスをした~


雨粒がビニール傘にぶつかって音をたてる。抱き寄せられた腕はさらに力がこもり、二人の身体が密着する。思わずあなたの背中にうでを回してしっかりとあなたの体温を確かめるように抱き締めた。



瞳を閉じたまま考える。ああ、私はこの瞬間をずっと待ってたんだ。何年も前から仲のいい友達の一人として付き合ってきたけれど、心の片隅であなたのことがずっと好きだったよ。今さら口に出して言うことなんてできやしないから、わざとあなたのことはオトコとして見てないような素振りをしてきたけれど。

ずっとこんなふうになることを心のどこかで待ち焦がれてきたんだよ。苦しかったよ…。

そう思ったら今まで抑えていた感情が一気に溢れ出て、涙の粒が頬をつたい落ちた。


それなのに。次の瞬間力強く抱き寄せられた腕は少しずつ力を緩め、間違えたと言わんばかりに素っ気なく離された。


「ゴメン。悪かった!つい、我慢できなくて…。ダメだな~、オレ。」


ううん、謝らないで。嬉しいんだよ。そんなふうに思ってくれて。

だけど、彼女の顔がふいに浮かんでどうしてだか心とは裏腹な言葉が突いて出た。


「あはは、ビックリさせないでよ!冗談ばっか。」

「そうだよな。冗談冗談!」


そんなこと言われたらもう腕も絡ませられないじゃない。バカヤロウ。なんも分かってないんだから。


微妙な距離を保ちながら傘からはみ出した二人はびしょ濡れになって歩きだす。


傘なんて貸してくれるからこんなことになるんだよ。

雨なんか降るからこんなことになるんだよ。

二人でなんか会うからこんなことになるんだよ。

これから先、二人で会えなくなったらどうしよう…。


いやだ。そんなのはいやだ。


私は立ち止まってあなたの左腕を掴む。

ぐいと引き寄せてあなたの首にうでを回してキスをした。さっきよりもずっと深い、ずっと熱いキスを。



雨が降ってくれたおかげで。

傘を1本だけ貸してくれたおかげで。


奇跡を起こすのは一つ一つの偶然なの。

奇跡を起こすのは・・・私の意思なの。


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