かけらを集める人

かけらを集める人がいた。

割れた陶器のかけら。
とうになくなったパズルの1ピース。
なにかの破片。
アクセサリーから落ちたらしいビーズ。
ばらばらにちぎれた手紙。
どこかの機械の部品。

人々は、かれを変わった人だと思った。
かれの集めるもので役に立つものはなかったし、それらをどうにかして役に立てているふしもなかったからだ。

でも、かけらを集める人は、さまざまなかけらを集め続けた。
そして、時々それらを取り出しては、眺めていた。

あるとき、誰かがこう尋ねた。
「何かのかけらばかり集めて、どうするんだい?」と。

かけらを集める人はこたえた。

「どうもしないさ。
ただ、こうしてあるものを眺めていると楽しいんだ。
どれもが、かならず、何かもっと大きなものの続きだったんだ。
それがどんな姿をしていたか、どんな風に使われていたのか、ここまで来るにはどんな道のりをたどったか……想像していると、楽しいよ」

質問した者は、こう言った。
「そんなこと言ったって、今となってはその全体像なんて、本当のところはわからないではないか」

かけらを集める人は言った。

「そりゃそうさ。でも、“ある”と知っているだけでいいんだ。
何かのかけらだったと、わかっているだけでとても愛しいんだ。
本当のところそれが何であったかは、ずっとわからなくても」

質問した者は首をふった。
「そんなものかね」

かれはほほえんで、また、かけらを眺めていた。

 (この物語は、2006年から2009年の間に私、masumiが自サイトに掲載していた創作の再掲載です。
2011年に開設した現在のブログ内で行った、これらの物語の紹介はこちら◆「物語をアップします」


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