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【作品をよく観る】作品比較2



こんにちは

どんと祭当日の午前中。この時間はもはや吹雪でしたが、夜になって止んだようです。吹雪の中の裸参りにならなくて本当によかった。


こちら仙台では雪の降る毎日ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?

一昨日14日、東北大学近くの大崎八幡宮では今年も「どんと祭」が行われていました。

私は残念ながら見に行くことができなかったのですが、18時頃に大学内でのアルバイトを終えて建物から出ると、かなり燃し火のにおいを感じました。

また、「裸参り」も例年通り行われた様子。
帰り道には、さらしや法被など白くて寒そうな様相で提灯を持ち、十数人で練り歩く人々を数団体見かけました。
実は研究室からも参加者がいたので、ぜひまた感想を聞いてみたいと思います!!

…と、ここまで書いたところで、今年の様子がもっと伝わるような記事を探してみたのですが、まさかの本研究室の先輩(東北大大学院文学研究科2年の…)がインタビューされ、すでに感想を語っていました笑

どんど祭の様子も動画でご覧になれるようですので、よろしければご参照ください😌


今回の話題

さて、今回は!
前回に続き、作品比較の授業をご紹介します!

二回続けて…とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、
今回、前回とは中々に毛色の異なる作品が挙げられたので、
その様子をまたぜひお伝えできればと思います。

なお、前回は「授業体験」をしていただければ…と考えた結果、
何だか比較の結果がわかりにくいようになってしまいました。
そこで今回は、指摘のあった点をおおまかに分け、その点のわかりやすい画像と併せたかたちで示していきます。


作品比較①

正面

最初の作品はこちら。今回は仏像からのスタートです。
教科書などで見たことのある方も多いのではないでしょうか?

発表者からはこんな指摘がなされました。
・着衣のひだ(裾)について
 ①足首にくっつくようなかたち
 ②足首に向かって放射状に集中している

これに対して他の学生からは、台座の掛け布や着衣の表現により深く注目し、
 ①細かい皺、ひだをほりくぼめて表現
 ②大きくたゆんでいる、盛り上げて表現(凸で表す)

などのような指摘が挙げられました。

横から

横から見た画像。
これを見て、発表者からは、
・姿勢の違い
 ①やや前に傾く
 ②背筋はやや伸ばし、がっちりと構える
という点が挙げられました。

そこで他の学生からは、

・①が②よりかがんでいるように見える理由

〈正面の画像(※1枚目)より〉
①は両肘が開いており、顔は右側に傾いている。半跏に組んだ右足裏が上を向く。
②は、正面から見た左肩~左手先は一直線上にあり、脇を占めている。顔も正面を向く。また、右足裏も仏像の背面側を向いている。

〈横から見た画像より〉
①は右肘を右膝の前側に置くが、上腕はそのほぼ真上に伸ばし、顔に添えている。
②は右肘を①よりも体に近い部分に置き、上腕もやや体側に引く。その結果、顔は①よりも後ろになり、比較的前傾でなくなる。

→現実的な姿勢を考えたとき、①はかがんだ時に不自然でない(楽な)表現になっているのでは?

といった点などが加えられました。

顔のアップ

続いて、顔の表現について。発表者の指摘を少し聞き逃してしまったのですが(すみません…)、
②の顔が大陸系の印象を受ける、という話が挙がっていました。眉や目の彫りが深めに施されているからでしょうか。

 他、こんな違いが挙げられました。

・ふくよかさ
①半分目をあけている。口をキュっと閉めている。顔の大きさは②よりも大きく見える。眉はY字になり、他の各パーツも中央に寄っている。
②目の玉がはっきり表されている。 口が大きめである。
→①の方が②よりふくよかに表現されている

・ほほえみ方
①口角だけ上げて笑う、小鼻やじるしのようにとがっている
②頬から上げて笑う;小鼻の所に皺の彫りこみがある


こういった意見をまとめ、最終的に
①は「やわらかで曲線的な表現が多い」
②は「均整の取れた直線的な表現が多い」
となりました。


それでは、この仏像はどういったものなのでしょうか?

①は、京都府京都市右京区にある広隆寺の弥勒菩薩半跏像
アカマツを材質とし、七世紀前半に新羅で製作されたと考えられています。

②は、奈良県生駒郡斑鳩町にある中宮寺の菩薩半跏像
クスノキを材質として表面には漆が塗られており、七世紀前半、飛鳥時代に製作されたと考えられています。

この他、杉本によって、ソウル・韓国中央博物院の弥勒半跏菩薩像(七世紀、三国時代)和歌山県伊都郡かつらぎ町・極楽寺の菩薩半跏像(青銅製・七世紀、飛鳥時代)との比較もなされました。

また、こういった違いについて、最後に杉本は現物を見ることの重要性にも言及しました。
仏像においても、「後の時代に彫りなおしている部分はないか?」を常に考え、彫りが現状どんな風になっているのか、図録の写真だけでなく実際に自分の目で見て確かめてみることが必要ですね。



作品比較②

実際の作品

次の作品はこちら。鶴が頭を前に下げている様子を描いたものです。
墨遣いなど見どころは多そうですが、どんな指摘が挙がったのでしょうか?

作品の比較がしやすいよう、画像を加工して左右を反転してみていきます。

まず体の表現に対して、発表者からは
①は②と比べ、頭、足などが細く長く描かれており、鶴のスタイル良い
という指摘がありました。

そこで他の学生からは、
・体の毛の表現
①墨はかなり薄目であり、羽のようにふわふわした様子が描かれる。(特に足の付け根)
②輪郭線が太く濃く描かれる。足の付け根の毛は濃くまっすぐに伸び、固い印象を受ける。

・黒い毛の色
①黒の中にグラデーションがある。また、それが立体感に寄与している。(特に首の付け根)
②一面に黒く、目立ったグラデーションはない。尾羽にはあるものの、それによって立体感が表されていると考えにくい。

・首
①鶴が首を下げる様子が正面から描かれる。
②体は正面、顔は横から見た様子が描かれる。


また、鶴以外を描いた背景について、

 ・景物
①鶴の後ろに川が流れ、奥には山が見える。;奥行き感が表現されている。
②足元付近だけが描かれる。ジオラマらしさがある。

 ・地面の描き方
①点体で表現、密度・濃淡など打ち方に変化。小さい植物なので地面の表面に生える;地面の際に描く
②線で表現。そこから生える植物は長いが、角度・位置は均質。

・岩
斧劈皴ふへきしゅん(山水画の皴法しゅんぽうの一つで、斧で割ったような直線で表される。)を用いる。薄い墨+濃い墨+点体で表し、何層にも技巧を凝らす。
②輪郭+薄いグラデーションで表す。立体感は見られず、法則性も薄い。

 などの違いが挙げられました。


さて、これらの作品ですが、
①は京都市北区紫野大徳寺町にある大徳寺・真珠庵の竹石白鶴図屏風。室町時代(十五世紀)の制作で、制作者は伝・狩野正信とされています。
②は同じく大徳寺・聚光院の四季花鳥図襖。こちらは桃山時代(十六世紀)の制作で、制作者は狩野永徳とされています。

こちらも似た構図ですし、パッと見るとそんなに違いがないのではないか…と思える作品です。
しかし、こうして比較してみると、表現がそれぞれで異なっていることがおわかりいただけるのではないでしょうか。


作品比較③

今回最後の作品は、近年人気が高まっている某画家の鳥と木々を描いた作品

近世以前に制作されたと考えられているこれらの作品、どちらも明治以降の作品では?との判断となったのですが、
どのような流れでそういった判断に至ったのかをご紹介したかったので、
今回も詳細を伏せて書きます笑

結論からですが、①は②を見て描いたのでは?というのが、この作品の比較を踏まえた杉本の見解。

①と②は全く同じ構図のものなのですが、
学生から出た指摘は、
・②に描かれている鳥の羽が、①には描かれていない。
・②で鳥の尾羽と木の葉が重なる部分について、尾羽の奥に木の葉が透けて見える表現になっているが、①は尾羽と木の葉が不自然に重なっている
・②は羽の線の密度が濃い。①は比較的隙間がある。
など羽の描き方だけでもこれだけ違いが挙げられ、

顔料のグラデーションのつけ方や足の描き方、他の景物の描き方など、表現の違いを超え、総じて「②よりも①が雑である」というものでした。
とはいえ、比較的ましであるはずの①にも表現の稚拙さが見受けられ、
どちらも「本当に当時の価値観の中で認められていた作品だったのか?」と疑問符のつく展開に。

さらに杉本の指摘により、顔料の鮮やかさや絹の太さを近世以前・以降と比較し、「どちらも明治以降の作品ではないか」となったわけです。

また、制作者の観察眼を考慮した上で、その制作者の違う作品と比較したときにどうか?といった検討もされ、①②は生物らしさである躍動感や立体感の表現がかなり劣っていることが示されました。


ありがとうございました

いかがでしたか。

私たちの研究室は、作品について調査して発表、ということが多いのですが、レジュメを作ったりスライドを作ったりで忙しく、
肝心の「作品をよく観る」ことが疎かになりがちです。

本来作品から情報を引き出すことが最優先であるはずなのに、特に学部生の時は様々な部分に時間がかかるため、どうしても先行研究の作品解説ばかりに頼る人もいます。

ただ、それでは作品の実態は把握できませんし、「自分なりの視点」が見つからずに「研究」に発展させることができません。

また、今回のように各々が「似た作品を自力で見つけてくる」ことで、
その作品を見つけた当人をはじめ、多くの人が「こんな作品も似ていたんだ」「こんな表現の違いがあるんだ」と気づけるきっかけになったのではないかと思います。


そういえば、YouTubeの方にも「画を観る!」という企画がアップされています。
杉本が作品一点を様々に解説していくものとなっており、「作品をよく観る」ことへの導入に適しているかと思います。こちらもぜひご覧ください!


それでは、今回もここまでお読みいただきありがとうございました!
また次回もよろしくお願いいたします☺


【参考】

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