プリキュア帝王切開で思い出した瑕疵感

人は、当たり前のように「ある」と思っていたものを失うと想像以上のショックを受けるものである。

先日放送された「HUGっと!プリキュア」で描かれた、帝王切開での出産を控えた母親の心情が話題になった。

プリキュアの1人、さあやがドラマで医者を演じることになり、その参考に産科でお手伝いをすることに。
そこで第2子を帝王切開で出産予定のお母さんと、その娘あやに出会う。

あやは はじめての子で
わたし ちゃんと子育てしなきゃって
力が入りすぎて 逆に失敗ばかりしてしまって
あやには申し訳なくって…

だから次の子には完璧に子育てしようと…
なのに最初からつまずいて…

※第35話「命の輝き!さあやはお医者さん?」より

私も帝王切開で出産しているが、こんな風に思う人もいるのかと驚いた。

帝王切開になるのは、母子の生命を守るため。
より安全なお産にするためで、何ら悪くとらえることはない。
そのことは、アニメ内でも触れられている。

でも、大事なのは正しい情報を伝えることだけではなく、目の前のひとりひとりに寄り添い向き合うこと。

娘のあやちゃんと話してみると、お母さんは家事などで失敗ばかりでうっかりしてるところもあるけれど、足が速くてやさしくて、あやちゃんはお母さんが大好き。

また、やさしいあやちゃんをみていると、決して育児に失敗などしてないこともわかる。

完璧なお母さんじゃなくても子どもは愛してくれるし、完璧な子育てじゃなくても、愛情や思いがあればそれは子どもに届く

そうして愛や優しさは伝播していく。

そんなテーマでとても心にしみる回だった。

だからひと通り感動した後、この件も「そんな人もいるのか」「妊娠中は色々大変で情緒不安定になるもんな」くらいでスルーしかけた。
でもちょっと立ち止まると、人は当たり前にあると思っていたものを失うと、想像以上にショックを受けるものである。

そのことを思い出した。

当たり前の喪失と瑕疵感

このお母さんは、第一子は自然分娩で出産したものと思われる。

今回おそらく逆子のため帝王切開となり、不安でいっぱいなのだろう。

腹をかっさばくのだからこわいのは当然だ。
初めてのことならなおさら。
もしかしたら誰かに「帝王切開なんて邪道」みたいな心無いことを言われたのかもしれない。

理論的に考えてそこまで悪くとらえる必要はないのだけれど、妊娠中でホルモンバランスや体調の変化も激しい中、このようなストレスに晒されたら不安定になるのも無理もない。

でもそれ以上に、「自分の中の当たり前」を失ったことへのショックがあるのではないか。

人には、無意識のうちに前提としてとらえているものがある。
そのことは、失うまで気づけない。

私がそれに気づいたのは、卵巣が腫れていて捻転の恐れがあるし、不妊にも繋がるかもしれないから手術が必要ですね、と言われた時。

どうしても子どもが欲しいというタイプではなかったし、なんなら結婚すらするとは思っていなかった私でも、その事実にはショックだった。

どうやら自分には、当たり前に妊娠能力があるものだと思っていたらしい。

それを使うか使わないかは私の自由だけど、まさか能力そのものの有無は考えたこともなかった。

揺らいで初めて、そのことに気がついた。

ちなみに卵巣は結局一部切って、ついでに多発性子宮筋腫でボッコボコだったので筋腫も10個くらい取った。

それでも自分の妊娠能力を疑っていたけれど、運良く子どもを授かって今に至る。

話を戻すと、前回当たり前にできた分娩に今回挑めないことは彼女にとって想像以上のショックで、今まで自分に付属していたものが無くなったような、何かが欠けたような喪失感に襲われたのではないだろうか。

あたかも自分が欠陥品にでもなったかのような。

それが、「完璧な〜」という表現に繋がったのではないかと思う。

せめて動揺を広げないように

帝王切開に限らず、思いがけないことでひどく落ち込んだり、不安定になってしまうことは誰しもあるだろう。

理論的に考えておかしいことに頭が支配されてしまうこともある。

人の心に寄り添うのは難しい。
自分の心をコントロールするのも。

でも「HUGっと!プリキュア」は、人と違ってもいいし、悲しいこと、傷つくことがあってもやりなおせると繰り返し描いてくれた。

子どもだけじゃなく、たとえブラック企業勤めの大人にだって未来はある!未来はある!まだ終わってなんかない!と、敵たちを通して教えてくれた。
(私は女幹部にいつも内臓がちぎれる思いです。)

ちょっと大通りから外れても大丈夫。
我が道をいってOK。
行ったり来たりだってできる。

大事なのはカテゴリーや外の評価などではなくて、心の中にあるもの。

でも人生を歩く過程で、心が弱ることも、迷うことも、絶望することもある。

その辺りも丁寧に描いているのだと思う。

私ももちろん完璧ではないので完璧にはいかない。たくさん人を傷つけながら生きてるんだろうと思う。
それでも、なるべく弱っている人にはやさしく、少なくとも動揺を広げるような言動はしないよう注意したいと思った。

余談だが、子育てをすると言うのが気になって見始めた今回のプリキュア、思った以上に面白く、エネルギーをもらっている。

子育て描写も良く、主人公がはじめての離乳食を食べさせるシーンに感動し、この作品についていこうと決めた。
最初、主人公がスプーンに離乳食をこんもり盛ったものを口に運ぶも拒否され、育児に慣れているイクメン(のイケメン)が、スプーンの先半分ほどに盛り直して食べさせるというもの。
あえて説明なく、さりげなく描かれたシーンだ。

実はまったく同じことを私もした。
最初はちょっと控えめにスプーンに掬うくらいがちょうどいい。

子ども向け作品は、真善美、愛や優しさや思いやり、友情など人間の根源にうったえかけるような内容の良さがある。
本作は、それらを伝えるのに「ジェンダー」「出産」「育児」「仕事」「人生のやり直し」など現代の様々な問題を使っているので、大人の私たちもハッとするような内容になっている。

なんせ敵がブラック企業を模した組織だったりするのだ。
かつて敵だった人も、組織に傷つけられ、怪物化した後組織を去り、新たな人生を歩み出す。

たまに実生活を思い出して日曜の朝から胃が痛くなることもあるが、毎回刺激的で楽しい。

私はえみるちゃんが好きですよ。

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