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怨嗟の本棚

本棚といえば、忘れられない出来事がある。
我が家の本棚には、私の怨念と口惜しさとほんの少しの恥ずかしさが染みついているのだ。

天井まで高さがあり幅120㎝の、そこそこ大きい我が家の本棚。
出会いが大学の漫研という我々夫婦は、漫画や本、DVDの荷物が多く、新婚当初にこの本棚を買った。

買った、のはいいのだが、うちの旦那さんはおよそ家づくりというものに興味がなかった。本棚選びにも興味を示さず、結局私が選んで買った。本棚が到着し、さすがに大きいので旦那さんに組み立てをお願いしたものの、そのうちやるよ、と言いながら一向に組み立てない。

当時旦那さんは仕事で忙しかったし、旦那さんのタイミングもあるだろうとしばらくは見守っていた。
しかし、本棚に入れたい荷物も片付かず、本棚も組み立て前の状態で玄関に立てかけられたまま、催促しても効果がなく、1週間、2週間、3週間と経ち、久しぶりの休みも本棚に手をつけないまま自転車レースの遠征に出かけた旦那に私はキレた。

もういい。
男手なんかいらねえ。

ひとりで組み立ててやるわこのくそが!!!

ブチ切れた私は怒りで半泣きになりながら淡々と本棚を組み立てた。
正直、説明書通りにやれば組み立てはそう難しくない。ただ、デカイだけだ。

しかし一人では使わない巨大なサイズの本棚をひとりで組み立てるむなしさ。
結婚とは。
2人で力を合わせて暮らすことではなかったのか。
もう旦那とか別にいらないんじゃないかな。
旦那いなくて作業スペース広く取れて組み立てやすいくらいだし。
あいつは今、自分の存在価値を危険に晒していることに気づいてないんだろうな。ばかめ。

巨大な本棚は下の方が奥行きが深くなっているデザインで、全部で3つの棚を重ねる形であった。
ひとつひとつのパーツがデカく、思ったより時間はかかったが、3つの棚は全て組み立てられた。

ほら、できる。一人暮らしの時の本棚も、ひとりで組み立てたもんね。サイズはもっと小さかったけど。
インターネットの接続だって、家電の配置だって、一人でできるし。男手なんていらねえ。
まじあの無能め、くそが。

レースに向かう旦那との最後のやりとりが本棚で、私の最後のセリフが「もういい」であった。喧嘩別れみたいな形だったので、後味が悪い。レースで事故って帰らぬ人になったら後悔するかな、などと考えたりもした。
苦い気持ちと若干の後悔と怒りと悲しみを込めて、ネジを締めて締めて締めまくってそれぞれの棚は完成した。

ところが、最後の最後に問題が発生した。
3つの棚を重ねようとしたところ、一番上の棚だけ、重くて高くて乗せられない。
当時家には30㎝くらいの小さな踏み台しかなく、身長156㎝の非力な私には、一番上の棚が乗せられなかったのだ。

ちくしょう、悔しい、あと少しなのに。

頑張って棚を持ち上げて、踏ん張って背伸びをしてみても、届かない。乗っけられそうになっても、ぐらついて落としてしまいそうになる。

私も負けず嫌いなので、だいぶ挑戦してみたが、どうにもこうにも無理だった。

2人で使うものは、やっぱり1人では作れないのか。
かなり悔しい思いだったが、一方で、全部ひとりでてきるなんていうのは思い違いだよ、と言われているような気もした。

結局、時間切れで本棚を完成させられないまま、旦那が帰宅した。
出発前のやりとりと、あまりに頭にきていてついTwitter等でもキレた発言をしてしまっていたので色々察したらしい旦那は、反省した様子で手土産片手に帰ってきた。

そして、一番上のパーツを組み立て途中の本棚に乗せ、天井との突っ張り部分を調整してくれた。

男手なんかいらねぇ、ひとりで組み立ててやるわ、と思っていたが出来なかった、と話した私に、やっぱりそういうものなんだよと言った旦那には少々イラっとした。
ほら、一番上のを乗っけるのも、突っ張り部分の調整も結構難しいんだよ?などとのたまい、自分の仕事をアピールしていたが、正直いまだに納得していない。
大きな脚立があったら、自力で完成させられていたかも。美味しいとこだけ最後に持っていかれた気分である。

とはいえ、ひとりで完成させられなかったのも事実であり、なんとも口惜しい。

自分が色々出来てしまうこととと、それでも出来ないこともあること、喧嘩別れしてレースに送り出す後味の悪さ、家庭運営の難しさ、など様々なことを考える本棚の組み立てとなった。

とりあえず、この一件で旦那の興味ないことには本当に興味ないさまを学習した。
夫婦生活の妙を感じさせる出来事でもあったけれど、どちらかというとほぼひとりで本棚を組み立てさせられた案件として、いまだに根に持っている。

世の旦那さんは、こうやって少しずつ恨みつらみを重ねて減点が限界突破しないように気をつけていただきたい。
とはいえ私も、驕らずキレず、もうちょっと穏やかにまわしていけるようになりたいものだ。最近は、少しは旦那さんへの接し方が上手くなってきたと思いたいな。

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#私の本棚 #エッセイ #女性 #夫婦 #旦那さまは自転車のり

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