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令和元年(平成31年)司法試験労働法第1問答案

第1、設問1
1、Xとしては、Y社の従業員であるという地位確認請求という形で本件解雇の違法性と無効であることについて主張すると考えられる。
2、では、本件解雇は適法なもので有効か。なお、Y社は就業規則で従業員解雇につき定めており、Xを解雇し得る立場にはある。
(1)「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は…無効」である(労働契約法(以下「労契法」)16条)。
 そこで、本件解雇が「客観的に合理的な理由」によるものか、「社会通念上相当」なものかを判断する。
(2)ア、Y社はXにつき、同社就業規則(以下「規則」)32条2号、4号、7号該当事由があり、「客観的に合理的な理由」による解雇であると主張すると考えられる。
(ア)たしかにXはPに命じられた文書へのサインを拒否し、同文書を破り捨てている。そのため上司Pへの反抗として、規則32条4号の「従業員として不適格」ないし同7号の「やむを得ない事由があ」ったとも思える。その上Xの勤務成績もB+からCへと低下しており、ミスやクレームがあったことから、規則32条2号の「勤務態度が不良」であるとも思える。
 しかし、XはPが着任するまでは成績評価はB+だった上、頑張れば将来は店長や本部のマネージャーに昇進できるとも言われていたのであり、Xの「勤務成績が不良」である原因としてPが存在するのは明らかである。したがってPの対応次第では「改善の見込みがない」とは言えないので、Xは規則32条2号の事由には当たらない。さらにXのPへの上述の反抗とされる行動も、Xが日頃からPから叱責されたり他の従業員よりも酷く扱われたりといった事態が起こしたものと考えるべきであるから、これをもってXが規則32条4号、7号に当たると考えるのは著しく合理性を欠き、不当である。
(イ)したがってXは規則32条各号の事由には当たらないと考えるべきで、それにも関わらずなされた本件解雇は「客観的に…理由を欠」く。
イ、また、上述の通りXのPへの反抗とされる行動は上述の経緯に照らせばやむを得ないものであったといえ、懲戒解雇事由たる規則40条4号にも当たらない。
 そうであるのにもかかわらず、Y社は身勝手に懲戒解雇事由がある旨断じて、本件解雇に当たってXに解雇予告や予告手当を支払ったりしていない。本件では労働基準法(以下「労基法」)20条1項但書、2項に当たる事情も存しない。そのためY社はXへの解雇予告、手当支払を不当に怠ったもので、労基法20条1項本文に反する。
 さらに上述のようにXの成績等にはPのXへの対応等が関与している事が明白であるから、Y社としてはXとPの間に入って両者を人事的に離れたポジションに配置する等すべきだったといえる。
 このように考えると本件解雇は「社会通念上相当であると認められない場合」に当たる。
3、以上より、本件解雇は労契法16条により違法、無効である。
第2、設問2
1、設問1で検討した通り、本件解雇は違法無効であることから、Y社としては本件解雇後に発覚したXの本問の経歴詐称の事実が規則40条1号に当たり、同人を懲戒解雇するとして本件解雇の有効性を結果的に維持させようとすると考えられる。
(1)まず、そもそも後から発覚した事由をもって無効とされる解雇を有効なものと扱うことができるか問題となる。
ア、たしかにこれを認めると解雇理由の後出しが許されることとなり、正当な理由に基づかない解雇が乱発されるおそれがある。しかしそうしたものは後々解雇理由が不当であれば労契法16条等で救済される。また、事後的な解雇理由の追加を認めないと、再び別の理由で解雇されるという事態が生じ、紛争の一回的解決や当事者の負担の見地から不合理な結論となる場合もある。
イ、したがって、当該解雇以前い使用者側が知っていた事由を後から主張する事は許されないが、そうでないならば後からの解雇理由主張も認められると考える。
ウ、本件でY社の主張であるXの経歴詐称は、本件解雇の後に発覚したものであり、それ以前からY社が知っていたことは認められないから、Y社がこれを主張する事は認め得る。
(2)では、Y社の主張するように、Xの経歴詐称の事実は規則40条1号の懲戒解雇事由に当たり、結果として本件解雇は有効とならないか(労契法16条、15条)。
 なお、本件ではY社は同社就業規則40条各号で懲戒解雇事由を定めており、「使用者が労働者を懲戒することができる場合」に当たる。
ア、「重要」(規則40条1号)か否かは当該職務の内容やその経歴との関係性等を総合的に考慮して判断すべきであるが、学歴はその人のスキルに直結するもので、ひいては仕事の内容、レベル等を決める重要な考慮要素であり、「重要」といえる。
イ、Xは本件でホテル専門学校を中途退学しているのにもかかわらず、卒業したとしていて、学歴詐称していたと認められる。そのためXは「重要な…採用されたとき」に当たり、規則40条1号の懲戒解雇事由がある。
 すなわち「客観的に合理的な理由」がある。
ウ、もっとも上述の通りXはPが来るまではB+という良い成績を得ており、Pによって同人の勤務成績は下がっているにすぎず、Pが不当に関与しなければ、XはY社にとって十分な戦力だったと考えられる。このことは、本件学歴詐称の有無にかかわりなく言えることである。
 したがってY社がXの経歴詐称を理由に懲戒解雇とするのは、「社会通念上相当であると認められない」。
2、以上より、Xの経歴詐称の事実を踏まえてもなお、本件解雇は違法であり、無効である。

以上

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