見出し画像

2023(令和5)年第Ⅰ期明大ロー入試民法答案

第1、設問Ⅰ問題1
1、AはDに対して、所有権(民法(以下略)206条)に基づく返還請求権及び妨害排除請求権として、甲の返還及び移転登記手続請求をすると考えられる。かかるAの請求は認められるか。
(1)たしかにAは2020年4月当時甲を所有しており、現在はDが占有し、Dの登記がある。よってAの請求は認められるようにも思える。
(2)もっとも、Dとしては、自己が甲の登記を具備したことによりAが甲の所有権を喪失したとの反論をすると考えられる。かかるDの反論は妥当か。
ア(ア)177条の趣旨は、不動産物権変動の公示をし、もって取引の安全を図る点にある。そのため177条の「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、不動産物権変動の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。
 詐欺による取消(96条3項)がなされた後、対象物が第三者に譲渡された場合、121条、121条の2第1項により二重譲渡類似の関係となる。すなわち取消権者たる元所有者と譲受人とは当事者及びその包括承継人以外の者で、かつ同一の物の所有権をめぐって争うため、上述の正当な利益を互いに有することとなる。
 そしてこのような譲受人からの転得者についても同じように、元所有者からすれば177条の「第三者」に当たる。
(イ)もっとも、一見177条の「第三者」に当たるように見えても、資本主義経済下での正当な取引行為とは言い難い、信義則(1条2項)に反するような、いわゆる背信的悪意者については、例外として177条の「第三者」に当たらないと考えるべきである。
 このような背信性については、主観的なもので、個別的に判断すべきであるから、二重譲渡の譲受人とその転得者とは、それぞれ個別的に判断すべきである。
イ、本件でAは本件契約(555条)を取消しているが、その後Aが登記を具備する以前にBは甲をCに譲渡している。そのためAとCは二重譲渡類似関係となり、対抗関係となるのが原則である。そして、Dについても、Cからの転得者であり、DについてもAからすれば177条の「第三者」に当たる。
ウ、Cは、たしかにAを困らせようととしてBに甲の譲渡を迫っており、いわゆる背信的悪意者に当たる。しかし上述の通り背信性は個別的に判断すべきところ、転得者DはAB事情につき善意無過失で、背信的悪意者ではない。
 以上から、DはAの登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者として、Aからして177条の「第三者」に当たる。
(3)したがってAは登記なくしてDに甲所有を対抗できず、上述のDの反論が妥当する。
2、よってAの上述の請求は認められない。
第2、設問Ⅰ問題2
1、AはDに対して問題1と同じ請求をすると考えられるが、これは認められるか。
(1)二重譲渡関係の背信的悪意者でない譲受人からの、背信的悪意者たる転得者についても、一度背信的悪意者でない者が物権を取得している点、仮に背信的悪意者の物権取得を否定すると適式に取得できるはずの譲受人が背信的悪意者から責任追及されるといった不都合が生じる点から、元所有者からして177条の「第三者」に当たる。
(2)本件でABの事情について善意無過失のCがBから甲を取得している以上、Dが背信的悪意者であったとしてもAからして177条の「第三者」に当たる。
2、よってAは登記なくしてDに甲所有を対抗できず、上述のAの請求は認められない。
第3、設問Ⅱ
1、AはCに対して不法行為に基づく損害賠償請求をすると考えられるが、これは認められるか(709条)。
(1)要件は、「故意又は過失」で「他人の権利又は法律上保護される利益」を「侵害」したこと、「損害」の発生、それらの因果関係(「よって」)である。
(2)Aは丙の所有権を取得している(「他人の…利益」)ところ、本件瑕疵という「損害」が生じ、Aの権利への「侵害」がある。
 そしてかかるAへの侵害と損害は、いずれもCのずさんな設計や施工を原因とするもので、「よって」といえる。
2、以上より、Aの上述の請求は認められる。

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?