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獣神引退

「31年間応援して頂きましてありがとうございました!」
そう叫んで獣神サンダーライガーが引退した。

まだまだできるのではないか?とも思ってしまう。
引き際は人それぞれなので、コレで完全引退するかもしれないし、数多のレスラーのように再度復活するかもしれない。
プロデューサー能力も高い人なので、プロレス業界のみならず様々なこともできてしまうのかなとも思う。

最後の試合は案外あっさりとしていた。
彼の試合にはいつもメッセージ性を感じるのだが、「さ、世代交代だ」くらいの雰囲気だった。
それもまた彼らしい。
周囲の観客席には涙ぐむ人たちがチラホラいた。「やめないでー!」と叫んでいる人もいた。
今日ばかりはライガーの応援グッズに身を包んでいる人々が目立った。
花道に殺到する人たちのエールには最後まで答えていたのもまた彼らしい。

僕らの獣神の本当の引退試合は昨日だったかもしれない。
「僕ら」とは90年代前半を共に過ごした、かつてのプロレス少年、青年たちだ。
ライガー、藤波、サスケ、タイガーマスクwith エル・サムライ組vs佐野、大谷、高岩、田口with 小林邦昭
と言うかつてのジュニアオールスター勢揃いの試合だ。
リングコールはケロちゃんこと田中秀和リングアナ。レフェリーに保永昇男。
見ただけで涙が出た。
あの時代が一気に蘇る。
きっとここには来られないワイルド・ペガサス(クリス・ベノワ)やエディ・ゲレロも天界から覗いていただろうし、金本浩二やスペル・デルフィン、その他、生きているジュニア戦士たちの魂もここに在ったに違いない。
そう言えば、この日棚橋選手と対戦したクリス・ジェリコ選手はかつてスーパー・ライガーとしてドームに上がったこともあったなぁ。
どんな気持ちでバックヤードで見ていただろうか。

この試合もライガーの黒星で終わるのだが、若手に白星を上げさせる役割もまたライガーらしい。
そう言う意味では引退試合2日に渡って、彼は最後まできっちり仕事をこなしているとも言える。

31年間、見ている人たちにもいろんなことがあっただろう。ともすれば、この会場にいる人たち、またテレビで中継を見ていた人たちの大半は子供だったか、生まれていなかったかもしれない。

平成元年のライガーデビュー戦も自分はドームで観ていた。
「’89格闘衛星⭐︎闘強導夢」と名付けられた大会だった。
猪木がショータ・チョチョシビリに負けると言う衝撃的な後味の悪い大会だったが、その中でも新しいスターレスラーの出現はなんとも希望を感じたものだ。当時、一緒にいった友人とこのデビュー戦について「ちょっと生き苦しそうだったね」と話したのを覚えている。
その後、随分と改良されて息がしやすくなった「サンダーライガー」のマスクを見た時はなぜか安心したものだ。

生前、元気だった父と一緒に見た最後の試合は第1回スーパーJ-Cupだった。この試合も彼が提唱し、プロデュースした大会だった。未だにこの試合のビデオを見れば、トペコンヒーロでハヤブサに突っ込まれ、ライガーと共に飛ばされる父親の動画を見ることができる。
「プロレスなんて古臭くてつまらんわ」と言っていた父に「ほら、面白かったでしょ!!」なんてよくわからない自慢をした。
そのハヤブサも既にこの世にない。

いつの間にかライガー選手が大好きになっていた。
全身タイツなのに、覆面しているのに喜怒哀楽が見えるレスラー。
特に「怒り」を表現することは天下一品だった。
「あ、ライガー怒ってる、怒ってる」と一緒に行った友人たちと面白がるのは観戦の楽しみの一つだった。

縁があって新日本プロレスの選手のガレージキットフィギュアを作る機会に恵まれた。
いの一番に選んだのはライガー選手だった。
大会パンフにも広告を載せて頂き、それなりに売り上げた。
そんなご縁もあって、何度か直接ご挨拶する機会もあった。
先方は覚えていらっしゃらないだろうが、毎回緊張していてよく喋れなかった。とても感じの良い方だった。

父が亡くなったり、新日本プロレスが身売りしたり、いろいろなことがあって、いつの間にかプロレスそのものと疎遠になっていった。
普通にプロレスを観ることもほとんどなくなった。
今日、参戦している選手も半分くらいは知らない選手ばかりだ。
天コジ、永田、中西なんていう名選手が第0試合だったり、出なかったりしている。
お茶の間の人気者・真壁選手でさえ、似たような扱いだ。その後の世代の選手は正直よく知らない。
ライガー選手の引退試合では涙したが、他の試合はどう観ていいかわからず戸惑った。
パックグラウンドとなるストーリーがわからないせいもあるかもしれない。
既に年齢的にも一緒に観戦してくれる友人もなく、1人で見ていたと言うことも原因の一つかもしれない。
周囲が盛り上がれば盛り上がるほど孤立感に取り憑かれた。

自分もそろそろ次世代にバトンタッチする時期なのだろう。
寂しい気持ちのまま、ドームを後にした。

ライガー選手、本当に楽しい青春の思い出をありがとう。
お疲れ様でした。

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