命[インスタントフィクションその27]

「うんこ踏んだ!きったねぇ!」
大声が公園に響く。ギョッとする通行人を気にもせず男は不機嫌そうな顔を隠そうともしない。その目線の先は自身の足の裏、どうしてペット禁止のこの公園にうんこがあるのかという疑問や憤慨をぶつけるように睨め付ける。
「うわぁ!こっちくんな!」
何を言う間も無く今度は虫と格闘する男の悲鳴が上がる。虫を恐れる人というのもここ最近では珍しくない、どころかむしろ多いくらいではなかろうか。そう思いながら昼休憩の恒例となるTwitterでの時間潰しを行う。トレンドには『ヴィーガン』の文字、タップしてみるとそこには家畜否定意見が多かった。
「どうして命を食すことができるのか。彼らにはなんの罪もないだろう」
「動物を殺すことに忌避感はないのか」
辟易とした気分をもって昼休憩を終える。便利すぎるくらいに進化した現代にふくさようがあるとするならば、余計なことを考える時間ができたことだろう。どうにも汚物に対する過剰な嫌悪感、虫への忌避感、命や生きることへの考え方など、自然から隔絶された都市化によって大きく変わってきているように感じるのだ。
「人糞は肥料に使うこともあったってくらい人の生活になくちゃならないものなんだがなぁ」
汚物は目に見えないように下水に流す文化になってから久しい現代ではそれも無理ないことだろう。
「蜘蛛ってのは家の害虫を食ってくれる益虫だったりするんだが、、、」
都市化が進むとそれだけ虫を見る機会も減ることになる。よくわからない虫に対する嫌悪は相当なものになるだろう。
「生きるってのは生き物を食うってことなんだかなぁ」
多分それらは昔であったならなんら意識することなく当たり前であったのだろう。それらが時代が変わり、扱いが変わり、身近ではなくなったりいろんな考えを持つことであり方が変容していく。
「多分今の当たり前は10年後にとてつもない嫌悪感を生むことになったりするのかもな」
そんなことを呟きながら、今日も定時までに仕事を進めることにする。

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