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【聳】智弁和歌山に憧れた少年

今から21年前の2000年。少年野球チームに入ったばかりの1人の小学2年生の少年は甲子園に夢中になっていた。春は準優勝、夏は圧倒的猛打で全国制覇を遂げた智弁和歌山に魅せられて。


小学2年生が見た智弁和歌山

3番武内、4番池辺が豪快に足を上げ、相手投手のボールをしばき上げる。PL学園戦ではセンターフライと思われた池辺の打球はバックスクリーン左へスタンドイン。この2人を中心とした強力打線を武器に1大会100安打、13本塁打を放っての全国制覇。この年から四半世紀が経とうとする甲子園の歴史において、金属バットの性能が上がる現在もこの記録は破られていない。圧倒的破壊の証と言える。

小学5年生が見た智弁和歌山

4番ピッチャー本田。2003年、小学5年生だった少年は投打で活躍する智弁和歌山の中心選手に夢中になり、3年ぶりの全国制覇を心から願っていた。しかし2回戦で常総学院に破れる。この試合、エース本田はファーストを守っており、背番号10をつけた2年生投手がマウンドにいた。印象に残ったプレー、それは5回裏2アウト2.3塁の場面。詰まったピッチャーゴロを2年生投手はファーストへ悪送球してしまう。
野球を知った気でいた11歳の少年は智弁和歌山を応援し、エース本田が好きなあまり、背番号10の投手へ生まれて初めてのアンチテーゼと言える感情を抱いてしまう。

高校3年生が見た智弁和歌山

智弁和歌山に憧れた少年だが、一学年10人という狭き門を叩ける程の野球の実力を身につけてはいなかった。『憧れの智弁和歌山を倒したい!』というのは漫画メジャーを読みすぎた少年の精一杯の自己防衛だった。

別の高校に進んだ少年は、高校3年生の春、甲子園の2回戦で智弁和歌山との対戦が実現。
高嶋監督の仁王立ちをグランドレベルで目の当たりにした瞬間、相手ベンチに神様が立ってるいるような神々しさを覚えた。
そして5-2でリードする8回裏、味方がダメ押しの2ランを放った時、初回から仁王立ちを続けていた高嶋監督がベンチに腰を下ろした。
その瞬間は優勝を決めた瞬間に匹敵するほど感慨に浸る出来事となった。

社会人1年目に会った智弁和歌山OB

智弁和歌山に憧れた少年は社会人になり、野球こそ続けていなかったが、社会人野球チームを持つ会社に入社した。
そこで遭遇したのが智弁和歌山のOBである先輩。
2003年のメンバーと聞き、社会人になった青年の心は当時猛烈に応援していた少年時代に戻る。目を輝かせながら智弁和歌山をいかに応援していたかを語っていた。そして常総学園戦のあの1プレーについても。
『あの試合、2番手ピッチャーが大事な場面で暴投しましたよね!』と言ったその刹那。
『いや、それワシやないかい!!』と先輩から思いがけない一言が返ってきた。
新入社員の若造が陽気に地雷を踏んだ瞬間だったが、先輩の懐の深さに救われた。

そして人生は壮大な伏線回収なのかもしれないと感じた瞬間でもあった。

その先輩は都市対抗野球10年連続出場の偉業を達成。29歳になった青年の憧れは今も続いている。

29歳が見た智弁和歌山

2021年夏の甲子園。21年ぶりに智弁和歌山が全国制覇を達成。それは小学2年生の記憶まで遡る出来事となった。
高校3年生の対戦時は相手の守備とバントのミスによって主導権を握れたように思う。
一方で今年の智弁和歌山は持ち前の打撃に加え、守備・走塁・バントと細かいプレーの質が非常に高く見えた。そしてこのご時世や相手への配慮から、優勝の瞬間に歓喜の輪を作らなかったという高校生離れした意識の高さ。ここまでしないと優勝できない程、今の高校野球のレベルが上がってるのかと感嘆した大会だった。
これからの智弁和歌山、そしてそこに立ち向かう高校球児の戦いに目が離せない。

以上、少年時代から智弁和歌山に魅せられた1人の人間の創作のお話!

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