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日本政府の国連軽視

日本外務省のHPをみますと、こういうQ&Aがあります。

Q)日本にとってなぜ国連は重要なのですか。
A)日本が重視する課題に関し、国連が重要な役割を果たしています。
日本の外交政策を実現するには、国連の「普遍性」や「専門性」を最大限に活用することが有効です。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/comment/faq/un_summit/un.html#section6

確かに日本の戦後外交では▼米国との同盟関係と▼国連での国際協調が二本柱に据えられてきました。ですが、後者に関していえば、実体が伴ってきたとは、必ずしもいえません。
一部では国連軽視としか言いようがない言動もあり、その代表格は人権をめぐる課題です。


日本の構造的な課題

日本メディアではやや報道が下火になった感のある故ジャニー喜多川の性加害問題ですが、先日、国連人権理事会から日本に対する厳しい指摘の中で改めて取り上げられました。

国連といいますと、安全保障理事会での議論はよく日本メディアのニュースでも伝えられます。例えば、北朝鮮のミサイル発射やロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ地区攻撃などをめぐる安保理の動きです。

それに比べて、人権理事会の方はテーマが軍事紛争などではなく、また舞台がニューヨークではなくジュネーブということもあってか、日本メディアの報道は多くありません。私もかつてジュネーブに駐在していたとき、人権理事会やその前身の人権委員会に関する原稿を書いてもあまり放送で大きくは扱われず、残念な思いをした記憶があります。

しかし、6月26日に人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が日本で初めて実施した調査の報告は、ジャニー喜多川問題も含まれていただけに、それなりに報じられました。上記のNHK記事にもあるように、作業部会の見解は厳しいものでした。曰く、「日本には人権に関する構造的な課題がある」と。

報告で取り上げられた具体的な課題は、ジャニー喜多川の問題をはじめ、▼性的少数者や外国人労働者に対する差別、▼主に中小企業における公益通報制度の不十分さ、▼東京電力福島第一原発の除染作業に携わった人たちの健康ケア、▼男女間の賃金格差、▼アニメ産業で働く人たちの長時間労働と低賃金、▼アイヌ民族、▼気候変動対策…実に多岐にわたっています。

いずれも大事な課題といえますが、きっと日本政府には響かないのだろうな…と私などは悲観的です。冒頭でも書いたように、こと人権の問題になると日本政府の国連軽視が目立つからです。少し具体的にみてみましょう。

2つの削除要求

今回の国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会の報告に関して、日本政府は2つの項目に関して「削除するよう求める」という反応を示した。
反論などではなく、削除の要求。

目の敵にしたのは、▼明治神宮外苑の再開発問題と、▼東京多摩地区で報告されているPFAS(有機フッ素化合物)汚染。前者に関しては全文を、後者は「少なくとも東京都西部地域の住民に関する部分」の削除を求めたのです。

これぞ国連軽視としか言いようがない対応はさすがに国会で問題視され、外務省が批判の矢面に立たされましたが、その結果、実際には削除要求の文言は東京都が作成し、外務省はそれをそのまま人権理事会側に伝えたことが判明。

国連人権理事会からの指摘に対して「削除を」と要求するのは小池知事の指示ないし承認があったとみるのが自然です。見解が違うなら、そうした主張を堂々と発信すべきで、削除を求めるのは傲岸というものでしょう。

また、そうした傲岸な要求をそのまま国連側に伝えた外務省の対応も、どうかしています。

改めて国内人権機関の設立を求められた日本

もう一つ、今回の報告での大事なポイントは、国内人権機関(あるいは国家人権機関)を設立するよう求められたことです。

国内人機関とは、政府から独立して人権侵害を受けた人の救済を行う機関です。日本では耳慣れないのは、それが日本に存在しないためで、世界をみると約120か国も設立しているのです。

しかも日本に対する設立勧告についての文言には、 "without further delay" 、「これ以上の先延ばしなく」と書かれています。実は、日本が国連から国内人権機関の設立を求められたのは今回が初めてではありません。最初は1998年、もう四半世紀も前なのです。

しかし、日本の歴代政権は黙殺し続けてきました

一義的には法務省が嫌がっているのでしょうが、根本には、自民党内に人権を大切にする発想が希薄なことがあるのだと思われます。このあたりは、今後の取材テーマの一つにしますが、いずれにしても、国内人権機関が日本にもあれば、少なくない人権侵害が救済され、また人権侵害の発生を防ぐことができていた可能性があります。社会全体が、今より風通しの良いものになっていたかもしれません。

遅きに失した感は強いのですが、日本政府として本当に国連は重要だと考えているのなら、今回の報告にもう少し真摯に向き合うことから始めてほしいと思います。


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