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韓国の防衛装備品が守るもの(前)

10月17日から22日まで、ソウル近郊の軍用空港で韓国最大の航空宇宙・防衛産業展示会「ソウルADEX」が開かれました。先日の記事でも紹介したように、韓国初の国産超音速戦闘機KF21が初めて一般公開されるなど、けっこう見所が多く、活況を呈していました。


筆者撮影

ADEXの活況は、すなわち韓国の防衛産業に勢いがあることを意味しています。防衛産業という言葉に「軍産複合体」、あるいは一歩踏み込んで「死の商人」といったワードを思い浮かべた方もいるかもしれません。安全保障にまつわるイシューは、とりわけ日本ではネガティブな響きがこもりがちです。日本の歴史を踏まえれば、そうしたネガティブな考えが出るのは、悪いこととは思いません。

一方で、世界はロシアのウクライナ侵略を目の当たりにしました。独裁者が自らの歴史観に拘泥したときの恐ろしさを。現実として、ウクライナのような事態を未然に防ぐための「抑止力」という防衛産業のプラス面に、今やや多めの光があたっています。

韓国の防衛産業が何を守っているのか、自分なりに考えたことを2回に分けて書いてみます。前編は、韓国自身にとってです。


1:安全を守る

韓国の防衛産業は、何はさておき国民を守るために兵器をつくります。正確を期すなら韓国で暮らす外国人も含めて、北朝鮮の武力挑発から人々を守るためです。

1950年に朝鮮戦争が勃発した大きな要因の一つが、南北間の圧倒的な戦力差でした。北朝鮮はソ連から提供されたT-34戦車などが豊富であったのに対し、アメリカは韓国に兵器らしい兵器をほとんど渡していませんでした。その戦力差が、金日成に「今なら勝てる」と思わせました。「侵攻への誘惑」とでもいいましょうか。

歴史に「もし」はない、というのは常套句ではありますが、「もし」を想像すると現代につながる教訓が得られるようにも思えます。もし1950年当時、アメリカが韓国にそれなりの戦力を提供していたら、金日成が南侵を躊躇した可能性は低くないでしょう。
そこから得られる教訓は、「戦力バランスが大きく一方に偏っている状態は戦争を誘発する」であり、裏返せば「双方で抑止力が均衡していると戦争は起きにくくなる」ということ。

かつての冷戦が、「熱戦」、つまり米ソ間の本格的な戦争に至らなかったのも、双方が強大な核戦力を保有していたからという側面が大きいのは否めません。「核の恐怖」が戦争を抑止したという捉え方です。

もっとも、ロシアのウクライナ侵攻をもってして「核抑止論」は大きく揺らいでいます。ロシアは核を脅しの手段として効果的に使ってしまい、NATO(北大西洋条約機構)を牽制しているわけです。ロシアとNATOという核を持つ者同士の戦争は防いではいますが、ロシアがウクライナに戦争を仕掛けるのを、NATOの核は防げなかったのです。

話を韓国に戻します。
朝鮮戦争で、韓国は国家滅亡の危機に瀕しました。以後、いかに自らの軍事力を高めるかは至上命題となりました。
朴正煕大統領が反対論を押し切って日本との国交正常化に踏み切り、それによって得られた経済援助をベースに国力を高めたわけですが、日本との協力で製鉄所ができたのは韓国の兵器を製造するうえで大きな役割を果たしました。

今や、通常戦力において南北間の軍事バランスは完全に逆転しています。ADEXでも韓国の半導体産業をフル活用した最新兵器が所狭しと並び、どの展示ブースでも開発担当者たちは「世界に通じる性能です」と自信に満ちていました。在韓米軍の戦力と合わさって、北朝鮮は通常戦力では歯が立ちません。

筆者撮影

だからこそ、北朝鮮は核開発に突っ走ったともいえます。「戦力バランスが大きく一方に偏っている状態は戦争を誘発する」のは、自分たちが一番よく知っているわけです。1950年、「南はロクな兵器を持っていない」とみて戦争を始めたのですから。
もちろん、米韓に北朝鮮を侵略する意図はありません。ですが、北朝鮮が再び妙な考えを抱かないようにするため、韓国の防衛産業は技術革新に余念がありません。

2:技術力を守る

防衛用の技術革新は、民生用の技術を進化させることにもつながっています。例えば、この原稿を皆さんに届けることを可能にしているインターネットは、アメリカ国防総省の資金提供を受けた研究が起源です。
ボーイングやエアバスなど、戦闘機や爆撃機を開発している企業が民生用旅客機を製造するように、軍用技術と民生技術は分かちがたくなっています。

つまり、防衛産業がその国の人々に次いで「守っている」といえるのが、その国の技術力だといえます。
近年、「経済安全保障」という言葉をニュースで目にすることが増えました。軍用に転用される可能性のある技術の流出を防ごうという概念なわけですが、その技術の筆頭は最先端の半導体です。半導体は、今や私たちの日常生活にとって欠かせません。この原稿を皆さんに届けることを可能にしているのは半導体です(くどいですね)。

韓国でも、兵器開発の多くは、民生用の製品をも製造している財閥系企業が担っています。例えば、戦車をつくっている「現代ロテム」は鉄道車両もつくっています。大韓航空は、いま無人戦闘機の開発を進めています。

大韓航空のHPより

ここまで読まれて、「そこまで軍用・民生用の開発が一体化しているのは、北朝鮮の脅威と対峙する韓国ならではの特殊事情では?」と感じられる方もいるでしょう。
そういう要素もあるでしょうが、日本でも、同じ方向に進む必要性が強調されています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/kokuki_uchu/pdf/004_02_00.pdf

上の資料は防衛装備庁が今年7月に出したものの1ページで、民間航空機開発と次期戦闘機開発は「車の両輪」であり、日本の航空機産業を強くするには両者の「シナジー効果」が必要だとしています。
例えていうなら、自動車メーカーがF1レースに参入するのと似ているでしょうか。F1用にスピードを極限まで追い求めてのエンジン開発は、一般道を普通に走る自動車の開発にも役立ちます。

というわけで、ここまで韓国の防衛産業が何を守っているのかについて、韓国国内にフォーカスしてみました。後編では、輸出の絶好調ぶりが何を守っているのかに注目します。

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