見出し画像

韓国 高まる核保有論

「韓国は、なぜ核保有国にならなければならないのか」

こう題して講演をしたのは、韓国の代表的なシンクタンクである世宗研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)韓半島戦略センター長。先日、東アジア総合研究所が東京の学士会館で開催したセミナーでのことです。

筆者撮影(マイクの前に鄭成長氏)

鄭成長氏は、昨年、同様のタイトルの書籍を出版され、韓国で大きな議論を起こしました(邦訳未刊)。

今回の講演内容を中心に、韓国で核保有論が高まっている背景を掘り下げます。


ド・ゴールの言葉

韓国では以前から自前の核兵器を開発・保有すべきだという主張はあります。そうした主張の背景には、言わずもがなですが、北朝鮮が核開発を続けてきたためです。
いくら通常戦力において米韓連合軍が北朝鮮軍を圧倒できるといっても、核兵器はその戦力差をひっくり返しかねない脅威です。

そして、より本質的なのは、アメリカの『核の傘』に対する訝しみです。「韓国が北朝鮮から核攻撃を受けた場合、本当にアメリカは核で報復してくれるのか?」という疑問なわけです。

とりわけ、北朝鮮がアメリカ本土まで届くと主張するICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発に成功したと喧伝するようになってから、その疑問が膨らんだのは無理もありません。
つまりは、こういうことです。

「アメリカ政府に、ロサンゼルスやニューヨークが北朝鮮の核攻撃によって焦土と化すリスクを取ってでも韓国を守る覚悟はあるのか?」

1960年にフランスが核保有国となった際、アメリカ政府は反対しました。しかし、フランスのド・ゴール大統領はそのアメリカに対して、「2つの世界大戦で、確かにアメリカはフランスを助けてくれた。しかし、2度とも、それはフランスが甚大な被害を被ったあとであった」と指摘したそうです。
こうした経緯を踏まえて、鄭成長氏は、ド・ゴールの言葉を紹介しました。

「どの国でも、自国より大事な国はない」

アメリカ政府が、いざというときに北朝鮮との核戦争を回避(=韓国を十分に守らない)したとしても、やむを得ないという認識です。

もはや期待できない北朝鮮の核放棄

アメリカの覚悟に対する疑心暗鬼が広がってきたのは、世論調査ではっきりと示されています。韓国ギャラップが崔鍾賢学術院からの依頼で実施して去年1月に発表した結果によれば、76.1%もの人が韓国独自の核兵器保有は必要だと答えました。実に4分の3以上です。

他の各種調査でも、たいてい、核保有への賛成は60%を超えます。

本当は、北朝鮮が核兵器を放棄するのがベストです。
6か国協議や米・韓とのそれぞれの首脳会談で、北朝鮮がそうした意思を表明したこともありました。
しかし、いかんせん行動が伴っていません。

とりわけ2019年の米朝会談が物別れに終わってから、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は「アメリカと取引するカードとしての核」という考え方を捨てて、ひたすら「威嚇の手段として核」へと舵を切りました。
2022年には、核による先制攻撃をも可能とする法令まで制定しているのです。

ここから先は

1,241字
この記事のみ ¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?