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恒大集団 清算のスピード感は?

もうしばらく前から経営悪化が表面化していた中国の不動産開発大手・恒大集団に清算命令が出されたのは、世界的なニュースとなっています。中国の不動産バブルがいよいよ弾けるのか、と各国の投資家らが目を皿のようにして影響を見極めようとしているからです。
実際、どうなのでしょうか。


命令は香港発

ニュースでご存じの方が大半かと思いますが、簡単に概略を。

香港の高等法院(高裁)は1月29日、恒大集団の会社清算をめぐる審理を開き、恒大に対して会社の清算命令を出しました。

ん?

恒大集団は香港の企業だったのか?と疑問が湧くかもしれませんね。
違います。本社は香港に接する広東省・深圳です。
登記の上ではタックスヘイブンにあるとのことですが、そこはスルーします(記事冒頭の写真も深圳)。

一国二制度がもう形骸化したとはいえ、香港と中国本土は法体系が異なります。なぜ香港の裁判所が深圳の企業に清算を命じられるかというと、香港の投資会社トップ・シャインが22年6月に恒大の清算を申し立てたためです。トップ・シャインは恒大の子会社の株式を保有していましたが、それを買い戻すという約束を恒大が果たさなかったとのこと。

というわけで香港の裁判所で審理が始まりました。審理はたびたび延期されるなどしましたが、昨年12月に大口の債権者グループが清算回避から清算支持へとスタンスを変えたことで、清算命令への流れができたと伝えられています。

恒大集団は既に一部デフォルト(債務不履行)と格付け会社から認定され、去年9月には創業者の許家印(きょ・かいん)会長が中国当局に拘束されるという具合で、経営はぐらついていました。

サッカーではアジアの雄

サッカーが好きな方は、「広州恒大」という強豪チームから恒大というブランド名を知ったことでしょう。
豊富な資金力にモノを言わせて南米などから有名選手をかき集めて中国を代表するチーム(中国の1部リーグ「スーパーリーグ」7連覇!)となり、アジア・チャンピオンズリーグを2度制覇
まさにアジアを代表するクラブチームとなったのです。

ですが…

「広州恒大」は親会社の経営悪化とともに資金が一気に枯渇。外国人選手はみな去りました。そして、22年末には2部に降格。諸行無常です。

資金力のあるチームがいい選手を集めて強くなる、これは世の東西を問わない現実です。一時期、巨人が各チームから4番打者急ばかりかき集めたように…
あの頃の巨人は成功したともいえませんが。

中国社会への影響と清算のスピード感は?

さて親会社に話を戻すと、気になるのは今回の清算命令の実効性と、中国の不動産市場全体に与える影響です。

中国経済に精通する日中産業研究院の松野豊代表取締役に話を聞きました。

まず、清算命令の実効性に関しては松野さんは「法律の専門家ではない」という前提に立ちつつ、「香港の裁判所が出した命令は一定の拘束力はあるものの、本社が深圳なので実際は深圳と香港の裁判所が協議をすることになるでしょう」と予想しています。

そして、ご存じの通り、中国本土は三権分立の体制ではないので、実質的には中国政府が差配することになりそうです。

となると、おのずと恒大の不良債権処理が中国の金融システムや社会に与える影響を最小限に抑えようという姿勢になるので、清算されるにしても「かなりゆっくりとした手順になると思う」と松野さん。

そして、「中国政府は『保交楼』といった不動産購入顧客への引き渡し優先政策に既に公的資金をつぎ込んでいるので、実質的に清算手続きは進めている。なので、今回の命令が何かを引き起こすことはなさそう」とのことです。

「保交楼」というのは、簡単にいうと、「不動産デベロッパーの資金難で建設が途中でストップした大型住宅開発を対象に、中国当局(地方政府のケースもあれば中央のケースも)が資金を集めて投入し、完成・購入者への引き渡しを後押しするスキーム」です。
あまり簡単ではないですね。
詳しくは、以下の記事が参考になりますが、かなり複雑なスキームです。

いずれにしても、「保交楼」といったスキームが既に動いているので、中国の不動産開発が全国規模で大混乱に陥ることはなさそうです。

ただ、問題は投資家心理です。バッドニュースが報じられると、それは常に実態以上に市場を揺さぶります。
松野さんも、「こういうニュースがあると、『信用』で動く株式市場や対内投資などは、また対中投資のポジションを下げると予想される。なので、次第に中国の家計部門にダメージが出てくることが懸念される」と話します。

そして、「不良債権処理は、短期間に一気にやらないと長期デフレ経済に陥ってしまう。これは、日本が嫌というほど経験したこと」とも指摘します。それを踏まえると、中国指導部は、恒大集団の清算では社会への影響を抑えるために慎重に進めないといけない反面、あまりダラダラするとデフレを招くという、けっこう際どい判断を迫られているといえそうです。

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