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ビザ免除 中国に一方的に求めても…

前回の記事では、中国の春節(旧正月)に何億人もが国の内外を移動する中で、ファーウェイの常務取締役・余承東(Richard Yu)氏が故郷の安徽省から深圳に戻る途中の400キロを自動運転で走行したニュースをお伝えしました。

今回も春節に関連した話です。

今年の春節は「史上最長」ともいわれる9連休となった人が多く、コロナ禍も和らいだことで外国旅行にも続々と向かいました。予約の件数は前年比540%増というニュースも。
長らく「ゼロコロナ政策」で縛られた中国の人たちにとって、今年がようやく「普通の」春節となったようです。

ですが、日本からみると今年の春節は「普通」ではありません
中国からの旅行客が、コロナ前に比べて、あまり戻っていないようなのです。


日本から足が遠のいた中国人たち

まだ春節は終わったばかりなので、この期間の来日中国人に関する詳しいデータは出ていません。ただ、メディアの報道をみると「春節を日本で過ごして爆買い!」という以前のイメージで期待していた観光地は、やや空振りのようです。

上の記事にもありますが、日本政府観光局(JNTO)の統計によれば、去年12月の訪日外国人数をコロナ前の2019年12月と比べると、中国は-56%です。
全体では、19年より増えている国・地域が少なくありません。
韓国の+215%は飛びぬけていますが、メキシコ+40%、アメリカ+26%、オーストラリア+23%、ベトナム+20%などなど。

中国人訪日客の「未回復ぶり」は突出しています
いや、正確にいうと-62%のロシアがマイナス幅のトップなのですが、そこはウクライナ侵攻をめぐる政治的な対立が絡むので、あまり参考にならないですね。
事実上、中国のマイナス幅が最大といっても構わないでしょう。

背景にはビザをめぐって「取り残された日本」

中国人観光客が戻ってきていない理由は、いくつかあります。▼中国経済の停滞、▼福島第一原発からの処理水放出への反発、それに日本ではあまり報じられていませんが▼中国において「日本のサービスは劣化している」とのSNSを通じた口コミの広がりなど。

しかし、最も大きいとみられるのは、ビザの問題です。

日本政府は中国人観光客にはビザの取得を義務づけています。
これに対して、今年の春節では「日本と同じアジア圏内ながらビザが不要な国」への旅行が人気となっていると伝えられています。
とくに急浮上したのは、春節を目前にしてビザ取得が免除されることになったシンガポール(中国語では新加坡)、マレーシア(马来西亚)、タイ(泰国)の3か国。
それぞれの頭文字をとった「新马泰」が外国旅行のトレンドにもなったとか。

実は、中国政府は日本政府に対してもビザ免除を求めているのです。
他国と違って話がややこしいのが、中国はコロナ禍前には日本人にビザ免除(15日間)を認めていたのに、コロナでそれを停止し、今なお元に戻していない、という状況
つまり、日本人は以前はビザなしで短期の中国旅行ができたのに、今はビザ取得が必要となったのです。

日本政府は、以前のようにビザなしに戻すよう求めています。
とりわけ日本側からすると承服しがたい点があります。それは、同じように「ビザ免除→コロナで停止」となったシンガポールとブルネイは元に戻った(またビザ免除)のに、日本だけそのまま取り残されたこと。

ビザ免除を外交に活用し始めた中国

日本側の苛立ちを見て「おや?これは使えるな」と考えたかは定かではありませんが、最近、中国政府は「ビザ免除」をヨーロッパとの関係改善に活用し始めています。

去年12月から、中国はフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペインを対象に15日間までの短期滞在はビザを免除するとしたのです。
「一帯一路」や諸々の人権問題、さらにはロシアのウクライナ侵攻などをめぐって冷え込んできたヨーロッパとの関係を好転させたい狙いは明白です。

「相互主義」は不当か?

話を日中間に戻すと、中国政府は以前のように日本人をビザ免除の対象とするには日本政府も中国人をビザ免除の対象にする必要がある、という立場を打ち出しました。
相互主義」です。
2国間関係において何らかの措置をとるとき、どちらか一方ではなく、両方が「せーの」と声を合わせて同じようにするわけです。

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