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地域のつむぎ手の家づくり|「手刻みの材による上棟の雰囲気が施主に“魔法”をかけるんです」 <vol.8/橋本工務店:静岡県浜松市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

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「手しごと」の家づくりを貫く

気持ちを込めて、丁寧につくられたモノが欲しい―。いま、「手しごと」によるモノづくりが再評価されています。身近に、使い込むほどに愛着が増していくような手づくりのモノがあることは、暮らしを豊かにすることにつながるのかもしれません。

静岡県浜松市にある橋本工務店は、手しごとにこだわる社長の橋本繁雄さんのもと、全棟を社員大工の手刻みによってつくります。それは、つくり手のエゴでもなく、根拠があいまいな懐古趣味などでもありません。住まい手と気持ちを重ねて一心同体になり、長く愛されるより良い家をつくっていくための確かな手法です。橋本さんは、手しごとでなければたどり着けない、そして、量産型メーカーなどでは、はるかに及ばない高みが、家づくりの世界にはある、と確信しています。

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橋本繁雄さん(右)と信頼と期待を寄せる、
いずれも20代と若い3人の社員大工

「信頼感」こそがモノづくりの基本

「大工が自ら墨付けをして、手で刻んだ木材(柱・梁)で建てる建物って、上棟(建て前)のときに独特の雰囲気を醸し出すんです」と橋本さんは話します。何百パーツとある手刻みの材で、パーフェクトに上棟することは、経験を積んだベテランの棟梁にとっても決して簡単なことではありません。「上棟前夜の大工は緊張して眠れない」と、よく言われるゆえんです。
上棟までの間、そこには、機械で設計(計算)・加工されたプレカット材を組み上げる作業とは明らかに異質の空気、見ている方もピリリと身が引き締まるような緊張感が漂います。緊張感の一方、大工にとっては“満点”に向けた答え合わせの時間でもあり、そんなワクワク感もにじみ出ます。

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その光景を目の当たりにし、雰囲気を体感する施主には、大工やモノづくりに対するリスペクトが自然に芽生え、それはつくり手に対する強い信頼へと転化します。橋本さんは「そうやって生まれる信頼こそが、家づくりにとって最も大切なもので、僕らはそれなくして良い家をつくることはできません」と言い切ります。「手刻みの材による上棟までの雰囲気が施主に“魔法”をかけるんです」と笑顔で話す橋本さん。橋本工務店にとって大工の手刻みの技術は、施主から絶対的な信頼を獲得するための“必殺アイテム”になっているのです。

建築家・伊礼さん譲りの手描きプランを提示

デザインにもこだわりがあります。橋本さんは、建築家の伊礼智さんに学ぶ住宅デザイン学校に2年間通いました。「(住宅の)高さの感覚をつかめたことがすごく大きい。天井の高さを決めてから階高を決めていくことを学びました」。外構・植栽の重要性や内(室内)と外(庭・外部空間)がゆるやかにつながる空間の心地よさなども含めて、伊礼さんから教わった住宅の設計・デザインの基本(本質)を実践しています。

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デザイン性へのこだわりを強めた理由については「実は、美しい住宅を建てたいという、美しい動機からだけではない」と明かしてくれました。「少しずつ地力をつけ、浜松市内の実力のある工務店さんたちと競合するようになったが、ある年、全敗を喫した。原因を考えた結果、デザインだ、という答えにたどり着き、それであわてて伊礼さんのところに駆け込んだんです」と笑いながら振り返ります。

いまも伊礼さんからの学びを生かしながら、自分なりに、より良いデザインを目指して模索し続けています。住宅デザイン学校で見せてもらった伊礼さんの手描きプラン(平面図)に強く惹かれたといいます。施主に対するファーストプレゼンでは、「伊礼さんの描く線」を意識しながら自ら手描きしたプランを必ず見せるようにしているそうです。伊礼さんと同じように建物の周囲に配置する緑(植栽)についても丁寧に描き込みます。「『手で仕事を進めていきます』ということをお客様に宣言するようでもあり、うちらしいやり方だなと気に入ってるんです」。

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実力工務店ひしめく浜松 素材も性能も妥協しない

橋本さんは「レベルの高い工務店がひしめく浜松で、互いに切磋琢磨し、刺激し合いながら良い住宅を追求していく」ことに充実感を感じています。手刻みという武器やデザインのほか、素材や性能(構造や温熱環境)についても高いレベルを目指しています。

素材については、手しごとと相性がいい自然なものを使うように心がけます。木材は天然乾燥した地域産の「天竜材」を全面的に活用。柱、梁・桁の構造にはスギ、土台にはヒノキを用います。「刻みやすいという理由もあるが、なによりも木の色つやが美しい」と橋本さん。木材の品質を重視し、表に出る化粧材は、必ず製材所に足を運び、「大工(自ら)の目」で見極めて選びます。

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外壁にはサイディングを使わず、内装(壁・床・天井)も無垢の木材や塗り壁で仕上げ、クロスは使いません。建具や家具も、可能な範囲で大工が造作。「手しごと(技術)が生かされ、その手しごとの美しさや魅力が宿る空間づくり」を常に目指しています。

橋本工務店が手掛ける住宅は全棟、長期優良住宅で耐震等級3。断熱については、下請け時代から施工技術を磨いてきた外断熱工法を採用し、HEAT20・G1*(UA値は0.5W/㎡K前後)を標準的な仕様としています。躯体性能と外断熱のメリットを考慮して、冷暖房は2階の天井裏に設置するエアコン1台で賄う形が標準。天井裏の空気を、熱交換型換気と組み合わせながらダクトを通じて全館に回します。

*「HEAT20」(ひーとにじゅう/一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)が出している断熱グレード(レベル)で、高断熱住宅のものさしとして参考にできる。グレード1(G1)とグレード2(G2)がある。
性能の解説はこちら▼
住まい×健康の専門家が解説!高断熱住宅で暮らすメリット
断熱性能ってなに? 断熱性能の基本と性能値の読み方

パッシブデザインをベースとしており、日射や風といった自然のエネルギーを有効利用することも意識。「(住まい手には)春や秋の中間期の気候がいいときは、窓を大きく開けて自然に親しむ暮らしを満喫し、真夏や真冬はエアコン1台でエネルギーコストを抑えながら快適に経済的に過ごしてほしい」と橋本さんは思いを語ります。

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“手しごとのサイクル”が家づくりを支える土台

橋本工務店の社員大工3人は、いずれも平成生まれの20代です。その若い大工に橋本さんは「腕は確か」と信頼を置き、さらなる成長に大きな期待を寄せています。「墨付けをして、刻んで、上棟して、造作して、終わったらまた墨付けをして…と、間を空けることなく一心不乱に技術を磨き続ける職人の成長スピードというのはおそろしいものがあります」と橋本さん。この止まらない“手しごとのサイクル”こそが、橋本工務店の家づくりを根底から支える土台となっているのです。

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のみやかんなの刃を研ぐ砥石
道具に愛着を持って手入れを欠かさないことは良い大工の基本

橋本さんは20代の後半に、建売住宅の下請けとして大工人生のスタートを切りました。そのころ、先輩や仲間の大工たちと話をするなかで、腕を頼りに難易度の高い注文住宅の仕事をこなす大工に強い憧れを抱きました。「オレも、良い家をつくる大工になりたい」。いまでもその気持ちを、自分の原点として大切にしているそうです。

「優れた料理人が、食材選びから始まり、丹精込めて丁寧につくるおいしい料理のような家をつくりたい」と橋本さん。大工を含むスタッフ全員と共に、「料理も家も手間ひまをかけた方が良いものができる」というシンプルな信念に従って、一途に良い家を追い求めていく考えです。

文:新建ハウジング編集長 関卓実
写真:橋本工務店提供

※参考図書『伊礼智の住宅設計作法Ⅲ 心地よさの ものさし』

『伊礼智の住宅設計作法Ⅱ』


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