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弱さをさらけ出す強さ

母の思い出

痛い!
しんどい!
苦しい!!と訴え続ける母。
私にはどうすることもできずに
ただ、そうかぁ、と聞くだけ。

それでも束の間、平穏な日もある。
そんな時、ポツリポツリと昔話をする。

あの頃の母さんは強かったよね〜
泣き言も言わずに一生懸命だったよね〜と私。

「うん、強かった」と母。

あれ? 今はめちゃくちゃ、泣き言言うてるやん、と私。

「うん、もっと強くなったからね」と母。

ん???

一瞬耳を疑ったが、母は確かにそう言った。
そしてスヤスヤ寝てしまった。

泣きごと言えるくらい、強くなった、という意味?

その頃、認知症が進み、ほぼほぼ
意味が通じない会話が多かったが、この一言には、唸ってしまった。


アスリートたちのメンタルヘルス


今、多くのアスリートたちは
メンタルコーチをつけているそうです。
それは、何がなんでも、絶対必要だから。

大阪なおみ選手が全仏オープンの
試合後の記者会見を拒否したことは、かなり、物議をかもしましたね・・・

「メディア対応 もプロの義務」と、かなり激しい非難を受けました。


しかし、その後の女子シングルスを棄権し、
自ら、ツイッターなどで、「うつ」で苦しんできたことを告白したことから、

特に海外では、擁護する声が増えました。
まだ記憶に新しい出来事ですよね。

実際に、トップアスリートの中に心の病を持つものが多いことは、
最近、いろいろなアスリートが自ら、情報発信しています。


2017年2月、『LIFEアンドレス・イニエスタ自伝』
世界最高のサッカー選手の一人です。
この本の中で彼 は、自分が過去に重いうつ状態だったと書いています。

2019年11月、『うつ白~そんな自分も好きになる~』
サンフレッチェ広島の選手だった双子の兄弟森崎和幸、浩司の共著です。

彼らも、ふたりともが「うつ」を発症、
そして練習場に通うことも、日常生活を送ることもままならない、
幾度もの心の病の発症を書きました。

日本のアスリートとしては始めての「うつ病」告白の書籍でした。

メンタルヘルスの実態調査

トップアスリートが心も体も強い、というのは、一般人が持つ幻想にすぎません。

国立精神・神経医療研究センターがラグビー選手における
メンタルヘルスの実態を調査し、発表したのが、2021年2月のことです。


これまで日本ではスポーツ界でメンタルというと
どうしたらより強くなれるか、
つまりメンタルタフネスという文脈でしか使われてこなかったといいます、

しかし、メンタルでより強くなるためには、
ベースとしてメンタルヘルスがなければならない、

つまり、健康でなければ強くもなれない・・・

しかしアスリートたちのメンタルヘル スを
真剣に考える指導者はそんなに多くはなかったと言えます。


この調査で分かったことは、

2.4人に一人が何等かのメンタル不調を経験、
10人に一人がうつ・不安障害、
13人に一人が希死念慮(死にたいと思う強い気持ち)

ということでした。

「よわいはつよいプロジェクト」


「よわいはつよいプロジェクト」というものが生まれ、
今、多くのアスリートたちが自分の弱さを少しずつ語り始めました。



心の健康、それはまず自分の今の状態に気づき
認めることから始まると私は思っています。

でも強くあることで自分を保ってきた人たちにとって、
弱い状態に気づくこと、そして認めることはとっても怖いことです。

その怖いこと、辛いこと、恥ずかしいと思ってたことを口にする勇気、
その時にこそ必要なのが「聴いてくれる人」です。
私は、コーチとはその辛い言葉を「聴く」人だと思っています。

ジャッジせずに、眉をひそめることなく聴いてくれる人がいて初めて、
人は、自分の弱さや辛さを認めて、口にすることができます。


弱音を吐く、ということ

つまり「弱音を吐く」ということです。

弱音をきちんと吐けた人が
それを自ら乗り越えてゆくことができる。

本当は、アスリートでなくても、誰でも、
そんなふうに弱音を吐ける場が必要なのじゃないか、
そんなふうに「聴いてくれる人」を必要としているのじゃないか、

「弱音を吐ける力」は、聴く人がいてはじめて育っていくものです。
弱音を吐くのも、力、つまり強さなのだとわかります。


母が「しんどい!」を連発できたのは、
あの日、私が「聴く人」になれたからかもしれません。

そして「泣きごとを言えるくらい強くなった」と
宝物のような言葉を、彼女は私へプレゼントしてくれたのかもしれません。


あなたは、「弱さ」について、今、どんなふうに考えていますか?

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