蝉時雨

お盆は父の実家に行く。毎年のことだ。
ぼくと同じ名字が刻まれているお墓に、父が水をかけている。祖母が言うにはご先祖様のお墓らしいけれど、ぼくにとってのそれはただの大きな石だった。

祖父が亡くなったのは今年の二月だった。とびきり冷え込んだ日の朝のことで、祖母が気がついたときにはもう冷たくなっていたらしい。そういえば、お葬式でお墓の中に骨壷をしまっているのを見た。祖父も、ご先祖様なのだろうか。
冷たくなったり、ご先祖様だったり、なんとなくわかるけれど、いまいち実感がわいてこない。来年、中学生になれば、あるいはもっと大人になれば、わかるのだろうか。

「おじいちゃんね、蝉の声を聞くと、今年も夏が来たんだなあ、って言うの」
祖母はお墓の前でしゃがみ込んで、手を合わせたままでいる。静寂に、蝉の声がうるさい。まだ登りきらない太陽が眩しい。蝉が鳴かなければ夏じゃないのだろうか、と祖母の背を見て思った。

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