かわいい妄執

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デス日常

なんか生活してて生まれた文章たち。 歪/罪悪  彼は車椅子に半分ずり落ちながらもたれかかり、顔は殆ど目までマスクで覆われている。頭髪は無く体は老いて、半袖シャツの袖口からは重力に抗えない贅肉が垂れ下がっている。彼の周りには誰も居ない。彼はひとりで爪先を使ってよろよろと前に進んでいる。不自然にずり落ちた体勢で、爪先を一歩ずつ動かして必死に何処かへ向かっている。私はもちろん彼を美しいと思い、それから人並みに罪悪感を抱く。彼の美しさは罪悪なのか、見せもんじゃねえ、と思っていると

    • まともになれない(昔の)

      ぐるぐるしてた時期の文章です。今は割と吹っ切れてる。 グローイング  体育の時間にはいつも自殺した方がいいのだよな、と思う。背筋を伸ばさないで体操する女の子たち、あの子たちのお腹の中には形成途中の鉛の塊が入っていて、じきに風に吹き飛ばされないようになるらしい。私は鉄くずを呑み込んでしまっていて、それで私の腹はぼこぼこと膨れている。大人たちが羨ましく思えた、それだけの話だ。皮膚も熔けていて臍の横の辺りから鉄くずがのぞいているが、私は強がって俯き続ける。  私は、彼らの軟らか

      • はきだめ

        1.ウォークス  夜のコンビニへの道の途中、頭のブリキ缶がねじ切れて、僕自身がアスファルトに流れ出るのを見た。僕はそれでやっと僕を通して世界を見ている彼の存在に気がついた。僕は彼に目配せをして、凍った硬い地面を走ってやった。赤信号を渡ってやった。  お前はこういう趣味なんだろ?  コンビニのATMで金をおろし、自動ドアを抜け、赤信号で止まった。目の前の雪山のそばに立っている、お団子頭の女を殴ってやることもできた。肌を刺す冷気は変にモノが当たっているみたいに感じて、僕は白いダ

        • Cat in the Flow

           雨の日だった。彼がそのぐしょ濡れた段ボールを見つけたのは、うらぶれた地下鉄駅の階段をのぼってすぐの、ぼうぼうの灌木の下だった。傘をさすと強い風に煽られて留め具がばたばた鳴った。冷たい雨と混ざった風が彼の長い前髪を凶暴に濡らした。  その段ボールは微かに鳴いていた。いや、鳴いていたというのは多少恣意的な捉え方かもしれない。その段ボールからは何かが軋んだような微かな音が、キシキシと途切れ途切れに聞こえていた。彼は傘の柄を肩と首の間に引っ掛けると、そのぐしょ濡れのカタマリを持ち上

          ぼくのサナトリウム(未完)

          1.  ラキはいつも友達と居る。ラキの席は窓際の一番前で、彼女はそこで友達の金髪を弄っている。その子の髪は何度もブリーチされていて、化学繊維でできたカーペットみたいにガサガサして見える。金髪の女の子とラキの間の机の上には、化学の教科書とノートが開かれている。小さな丸い文字で書かれた化学式。シンプルで見やすいノート。色ペンは2色だけ。  俺の友達が俺の机に向かって来る。 「なあ、数学のテストどうだった?俺一問やらかしちゃったんだよ、分かってたのになぁ。」  顔も向けずにバカだな

          ぼくのサナトリウム(未完)